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意識、言葉、生命とは何か「屍者の帝国」

屍者の帝国屍者の帝国
(2012/08/24)
伊藤 計劃、円城 塔 他

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屍者の帝国を読んだ。おもしろかった。
夭逝の天才・伊藤計画氏の絶筆を、同氏が遺したプロローグ部分とプロットを基に円城塔氏が執筆した大作。
本作は死んだ人間を、物言わぬ機械同然の屍者として再利用する技術が発展した世界の物語。
時代設定は19世紀末、国はロンドンから始まりアフガニスタン、アメリカと文字通り世界中を冒険する。
そしてなにより耳目を集めるのは、主人公があのシャーロック・ホームズの名助手ジョンワトソンであることだろう。
本作はホームズに出会う前のワトソンが、アフガン戦争でいかなる経験をしたのか、という仮定から想像を膨らませて出来上がった物語。

こう書くと、本作はあたかもホームズのブランド力を借りた三流SFをイメージしてしまうかもしれない。
しかし、それは誤りだ。
本作の裏に込められたら伊藤計画氏の思いや狙いは、そのような浅ましい邪推などでは決してないことに、読み終えた読者は気づかされるに違いない。

これは死と生の境界を根底から問い直す物語だ。
意識とはなにか、魂とはなにか、生きるとはどういうことなのか。自我とは何か、私とは誰なのか。私を認識する私は本当に私なのか。
屍者という技術が発展してしまったが故に、死と生の境界が曖昧となり、無限の問いを繰り返すワトソン。
遂に答えを得られなかった問いの果てで、ラストを飾るのはある人物の独白だ。

その、独白。
それはあまりにも鮮烈で、あまりにも純朴で、そしてあまりにも美しい独白だ。
この物語はこの独白のためにこそここまで紡がれたのだという思いを確信させてくれる、素晴らしい締め括りだった。

物語のなかに散りばめられたあらゆる伏線の上で成り立つラストの独白には、賛否両論あるかもしれない。
この独白によって解決される謎など何もないからだ。
しかしこの独白にこそ、ワトソンや彼が追い求めてきた冒険や行動への一つの答えが込められているのだ。

非常に素晴らしい小説でありました。
凄く分厚くて、長くて、読む人を選ぶ小説だけど、自我や意識への問いというワードに興味を持った方はぜひご一読を。
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ここから物語は紡がれる「空想都市Recycle2」

空想都市Recycle2

空想都市Recycle2を読んだ。面白かった。

サークル空想都市の面々が描くオムニバス短編小説集の第四弾。
同サークルがこれまで刊行してきた同人誌は、
オリジナル短編小説を数編収録した無印シリーズ(既刊2冊刊行済み)と、
あるお題に沿って各サークルメンバーが短編を著すRecycleシリーズとがある。
そして去る夏コミC82で刊行された新刊が、このRecycle2である。

この作品集を読み終えた今、僕はただ圧倒されている。
ここに収録されているのは、創作活動という情熱の塊なのだ。
すべての作品が挑戦的で、意欲的で、「俺の作品こそが一番面白い」という
傲慢にも似た自信と意志に漲っている。
その熱意は強烈な闘志となって読むものをひたすらに蹴散らし、
油断していると作者のテンションにただただ流されていくだけとなる。
さながら急流とでも呼ぶべき物語の緩急は一時の暇を挟むこと無く
ごうごうと音を立てて流れていき、
あるところで、ぽん、と読者を突き放す。
それこそが本作のテーマ「大風呂敷」だ。

はっきり言おう、この同人誌を読み終えたところで救いなどどこにもない。
僕らに許されるのは、この物語を読み終えた読者に残されるのは、
更なる物語を求めんとする貪欲な欲求だけだ。
ストレスが溜まる。
もっと読ませろ、早く続きを読ませろと、己の中にある野獣のような欲望が、
牙をむき喉を唸らせてがむしゃらに物語を求め続ける。
しかしいくら物語を求め、欲求に身を任せようとも、
これらの結末を見ることは決して叶わない。
なぜなら、そもそもこれらの結末はまだこの世に生み出されていないからだ。
その絶望に身を浸し、一晩かけて現実を受け入れられるころになって、
ようやくこの文章を書くことが出来るようになった。

さて、ここに収録された作品はすべてが力作だ。
すべての作品がプロローグとして壮大な物語を予感させ、
すべての作品が更なる頂を目指そうとしていると感じられる。

そのなかにあって、それでも僕が感想を書かずにいられない作品が数作ある。
それをぜひここで紹介させていただきたい。

まずは八木山ひつじ氏の「グランドスラム・メタルジャム」。
一言で言ってしまえば、弱小スポーツチームが新しい監督を迎え入れて優勝を目指すスポ根サクセスストーリー。
特にこの弱小チームの面々が非常にキャラがたっていて、
それぞれの台詞や行動が非常にわかりやすい。
若干専門用語が多すぎて読む人を選んでしまいそうなきらいはあるが、
底に潜む新スポーツへの熱意が文章からぎんぎんと発散されていて、
スポーツに疎い自分でさえもその展開には手に汗握ってしまった。
彼らメンバーは最弱チームという汚名を被りながら
なぜいまだチームに属しているのか、
そして新監督はなぜこのような弱小チームに赴任してきたのか、
何よりこの新監督はあざとすぎるくらい狙い澄ました「美幼女」なのだが、
そんな彼女はいかなる想いで「優勝」の二文字を狙っているのか。
この辺を想像しだすと妄想が全然止まらない。
この作品はぜひ結末を読んでみたいのだが、早く続き出ませんかね?(チラッチラッ

続いて五月八日氏の「わたしのお姉ちゃんは天才である」。
全作品のなかでもっともライトノベルに近い文体で、
また各キャラクターの特徴や世界観が特に完成されていることが印象に残った。
技術考証では九里史生氏の「暗殺妖精リルクロイツェル」が頭一つ抜きんでているが、
その先、つまり物語を締めくくるための伏線や考証といった面では
本作こそより優れていると感じられる。
このようなドタバタSFラブコメディ的な物語は
フルメタル・パニック!を彷彿とさせるが、
この作品にはフルメタよりもさらに破天荒な物語構成へ昇華していただきたいと思えた。
全作品のなかで、もっとも続きを読みたいと思わせてくれたのも本作だったことを付け加えておきたい。

そして木倉俊文氏の「アルファ・ケンタウリからの手紙」。
これはやられた。
何という哀しい物語だろう。
あのアンドロイドの描写と、焼き付きのエピソードだけでこの物語は完成してしまっているではないか。
そこに至るまでの銀箔や大災害、グリッド線で表示される仮想三次元空間などは、
その精緻な描写と考証にも関わらず、ただの布石にすぎないことに驚かされる。
この物語の基盤とは何か。
それは、「孤独」だ。
たった二文字で表現されるこの言葉こそが、この物語全体に漂っている悲しさの正体だ。
まるで足元をひたひたとたゆたい続けるような、ほんのりと冷たい「孤独」。
その冷たさはいつまでも僕の魂の奥底を冷やし続けているようで、
読み終えた後もずっとずっと"手紙"のことが胸奥から離れなかった。
彼女は何を思っていたのか、いかなる想いでこの十数年を過ごしてきたのか。
本来であれば知るよしもなかった"優しさ"の意味や、"愛情"の温かさを胸に懐き、
そして、だからこそ知ってしまった"孤独"と"絶望"の冷たさを刻み込まれた彼女の心は、
死の間際でいかなる想いに満たされていたのか。
それを思うとあまりにもやるせなく、切なくなってしまう。
Recycle2のテーマは「大風呂敷」だが、この作品はそのなかにあって異色だ。
これは、これだけで完成された掌編なのだ。
もちろん、作者である木倉氏は更なる物語への展開を夢想しているのだろうが、
僕はこの作品に限って言えば、これはただこれだけで完成されており、
仮に続きが著されなかったとしてもひとつの作品として耐えられる傑作であることを確信している。
素晴らしい物語体験に感謝の意を表したい。

最後に、これを忘れてはならないだろう。
Lackey氏の「本のない国」。
これは別格である。
Recycle2に収録された作品群は、すべてが「続きを読みたい」と思わせてくれる力作であることに疑いの余地はない。
だが、この「本のない国」だけは別格なのだ。
これは続きを読みたいと思わせる作品などではない。
「続きを書きたい」と思わせてくれる作品だ。
恐ろしいほどの自由度の高さ。世界観、キャラクター、主題、すべてを曖昧に伏せたままで、
ただひとつだけ読者に与えられたヒント。
それは「人類の叡智を使って、異邦人による異文化の国を再興せよ」という途方もないテーマである。
なんと壮大なテーマだろう。
この単純明快でありながら深淵無限に至る主題は、僕ら物書きにとっては魅力的なことこのうえない。
駒野の最後の台詞で表せられた偉人の名前は、ソクラテス、プラトン、アリストテレス、孔子、そして福沢諭吉。
いずれも人類史に名を残した偉大な賢人たちであるが、
ここで気になるのは、彼らがいずれも哲人であり思想家ではあるものの、
科学者ではないということだ。
つまり彼らの知識は国家や人間社会の礎を築くのには非常に有用な思想を与えてくれるが、
かたや生活基盤の充溢や新兵器の開発となると、彼らの知識だけでは心許ない。
この辺に駒野の知識の限界があり、それこそが物語における制約条件となってくるのだろう。
この制約条件を身に縛りながら、いかにエキサイティングな物語へ昇華させていくか。
物書きの本能を否応なしに刺激し、くすぐってくれる、素晴らしいプロローグではないか。
書きたい。この続きを自分こそが書いてみたい。
本来ならばあり得ない欲求を目覚めさせてくれる物語、それこそが本作「本のない国」だ。

いやはや、今回も本当に素晴らしい作品群でございました。
これほどの力作たちに出会えた幸運にひたすら感謝。

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Author:缶
SS書いたり読書感想文書いたり仕事のあれこれを勝手気ままにダダ漏れさせる予定のようなそうでないような。

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