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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第一章~蜜月~

    幕間 其の一


「ヒューマノイドにも睡眠が必要なのですか?」

クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役の伊藤博之は、

己の疑問を素直に口にした。

その表情は信じられない、ただの設計不備なのではないか、と語っている。



「ええ、必要です。絶対不可欠である、と言い切っても構わないでしょう」



伊藤の質問にそう答えたのは、

イノベーティブテクノロジー開発部ヒューマノイドテクノロジー開発センターのグループマネージャー、剣持秀紀だった。



二人の他には誰もいない会議室の中で、剣持はヒューマノイド開発の進捗報告を続けた。



「ヒューマノイドにとっての睡眠とは、いわゆる『記憶の整理』です。

 昼間に得た記憶の中で、必要なものだけを記憶し、

 そうでないものは消していくというバッチ処理を行います」



剣持はペットボトルのミネラルウォーターを口にして続ける。



「私達人間は、毎日の生活の中で様々な『モノ』を見ます。

 テレビを見て、書類を読んで、電車に乗れば流れる風景を見て、

 ただ歩くだけでも街の風景を見ることになります。

 そして私達は、それら風景の全てを『見る』ことはあっても

 『記憶』することはありえません。

 目的地に行くまでの道順を覚えてる人はいるかもしれませんが、さすがに

 『駅から十歩歩いた場所から見えるビルの窓の数』

 まで覚えてる人はいないでしょう?

 しかしヒューマノイドにとっては、それら全ての情報を『見る』だけではなく

 『記憶』しなければいけないのです」



そこまで言ってから剣持は間を置く。伊藤は言葉を挟まない。

特に質問は無いと判断して、剣持は続けた。



「記憶する情報は多岐にわたります。

 視覚情報は勿論のこと、聴覚情報、姿勢制御情報、危機確率に、

 情動トランザクションログ、とにかく様々な情報を

 ログとして保管しておく必要があり、

 そしてそれだけ大量のデータを保存するからには、

 ある程度の容量が溜まったらどこかへそのデータを吐き出す、

 あるいは必要ないデータを削除するという、

 情報ライフサイクル管理、いわゆるILM

 (Infomation Lifecycle Management)

 を実施しなければなりません。

 そのILMこそが、ヒューマノイド達にとっての『睡眠』に当たるのです」



「ではアンドロイドたちは、何故視覚情報その他を

『記憶』しなければいけないのですか?

 人間と同じように、必要な情報だけを随時記憶していれば良いのではないですか?

 そのようなプログラムを作成することも可能でしょう?」



剣持は苦笑いを浮かべながら、



「ええ、ええ、正に仰る通りです。

 人間と同じように、必要な情報だけを随時取捨選択し、必要なものは記憶し、

 そうでないものはその場で消去する。それが理想と言えば理想です。

 しかし人間とは違って、ヒューマノイド特有の問題が三点あります。

 ひとつは、ハードウェア性能の問題です。

 必要な情報を取捨選択するILMアプリケーション(ILMA)を現在開発中ですが、

 このILMAを常時稼働させるためには、

 ヒューマノイドに搭載予定のプロセッサでは性能が追いつかないのです。

 例えば視覚情報ひとつ取っても、画像を解析し、危険度を判断し、

 将来への危険度をウーレンベック過程から確率計算し、

 計算結果を基に記憶を重要度に分けて階層処理し、

 最下層のML3に分別された情報を削除していく。

 これらの動作を秒間三十コマの間隔で実施させなければなりません。

 ・・・これだけの処理をさせようとすれば、

 とてもではありませんがプロセッサがヒートアウトしてしまいますよ。

 もうひとつは、世間はヒューマノイドの視覚に『監視カメラ』と

 同程度の機能を求めているという現実です。

 何か重大な事件があった。

 それをたまたま目撃したアンドロイドがいた。

 ではアンドロイドの視覚ログを調査しよう!

 だけど視覚情報は消去された後でした。

 ・・・・・・これでは世論を納得させることはできないでしょう。

 ・・・・・・そして最後のひとつですが、

 人間と一緒に『眠る』ヒューマノイドの方が、

 より人間的で、愛着が湧くじゃないですか」



そこまで言うと、剣持は伊藤の反応を待った。伊藤は大きなため息を一つつく。



「・・・・・・最後のひとつは別として、

 もっとも大きな障害はプロセッサの処理能力限界ですか・・・。

 それでは、常時ILMAを実行させるとしたら、

 プロセッサにかかる負荷はどれくらいなのですか?

 そして、その負荷に耐えられるCPUの候補は?」



「まぁあくまで概算結果に過ぎませんが、

 おおよそ一〇ペタフロップス程度の処理能力は必要でしょうな。

 現在世界最高速のスーパーコンピュータはIBMのBlueGeneですが、

 それのちょうど十倍の性能が必要な計算になります。

 一台のヒューマノイドに千億円のスパコンを搭載しなければなりません」



肩をすくめながらそう語る剣持。ふむ、と不機嫌そうに鼻を鳴らす伊藤。



「どうしても、二四時間三六五日稼働可能なヒューマノイドを実現できない、ということなのですね・・・・・・」

「ええ、少なくとも、ヒューマノイドが私達人間と同じ物を見て、

 同じ物を感じるのであれば、

 睡眠の必要性はどこまでもついて回る問題であると言えましょう」

「・・・・・・わかりました。引き続き、開発をお願いします。

 今日は進捗報告ご苦労様でした」



そう言うと伊藤は、机上のノートPCを畳み、さっさと会議室を出て行ってしまった。



「・・・・・・やれやれ、慌しい人だねぇ。

 こちとら週一の報告のために徹夜でプレゼン資料を造ったってのに、

 素っ気ないもんだ」



剣持はため息をつきがてら、伊藤が出て行ったドアを見やる。

次の会議室利用者のために早々に退室しなければならなかったが、プロジェクタのスイッチが完全にオフに切り替わるまでには、まだ多少の時間がかかりそうだった。





正徳一九年(西暦二〇〇七年)九月一二日(水)へ



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