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初恋のもどかしさを主人公と共に感じ取れ「キスまでの距離」

キスまでの距離


村山由佳の「キスまでの距離」を読んだ。面白かった。

先日、人類史上最高の小説と題した日記を書いたのですけど、
そこで村山由佳さんの「天使の卵」についてプッシュしたら、
改めて村山さんの小説を読み返したくなってしまい、
思わずキスまでの距離を本屋で衝動買いしてしまいました。

つかこのことにより、キスまでの距離はノベルスが一冊、
文庫化されたときに記念として買ったのが一冊、
そして今回買ったのが一冊と、合計で3冊同じ本があります。
もうね。保管用とか布教用とかでなしに、
純粋に自分が読むだけのために、なぜ同じ本を3冊も買ってしまったのか、と。

しかもこの本、オイラが中学生の頃に第1版が出たのですけど、
そのときにもう何度となく繰り返し繰り返し読んでいたため、
文庫版を読み返すとどこが修正されたのか一目瞭然なくらいに読み込んでるんですよマジで。

んで実に14年ぶりに改めて読み返したのですが、
いやぁ、やっぱり村山さんの小説は天下一品ですわ!

何て言うのかしら、村山さんの文章は、読者と主人公が本当に一体化できるんですよ。
いや、"感情移入"とかそういうレベルの話ではなしに、
何と言うか、「五感で読み解く小説」とでも言うのかしら。

例えばラノベ界で類い希な筆致力を持つ作家さんというと、
とある飛空士への追憶」の犬村先生がいらっしゃいますが、
その犬村先生の文章を一部抜粋するとですね、

東の空の裾に真っ赤な朝焼けが浮かびはじめた。焼け爛れた色をした夏雲が地平線上に輪郭もけばだたしく湧きあがる。
空を駆け上がっていくアイレスⅡたちは真紅の背景に浮かび上がった影絵のすがただ。洗練された十字形の機影を刻み込み、どこか物悲しい響きを残して、プロペラ音が彼方へ遠のいていく。

これは主人公シャルルがいま正に旅立たんとする名場面でありますが、
暁の赤と、宵の紺、そして仲間たちが乗る飛行機により描き出されたまばらな黒点など、
その場の情景がまるで一枚の絵画のような美しさでもって、
細密でかつ繊細に描かれています。

しかし、村山さんの文章は違います。
「キスまでの距離」から一部抜粋しますと、

矢印に従って小道へ入ると、下り坂になった。道沿いの家はほとんどが別荘で、あたりに人けはない。このあたりは昔、源頼朝らの合戦場にもなったらしい。枝から枝へと鳴き交わす鳥たちの声のほかは、風の音と、僕らの足音しか聞こえなかった。
枯れ草の中には野性の水仙が乱れ咲いていた。雨戸の全部閉まった一軒の別荘の庭で、見上げるようなミモザの古木がひっそりと咲き誇っている。黄金の小山のようだった。

文章にして、僅か5行。
このたった5行の文章の中で、その場の雰囲気や空気すらも見事に表現しきった素晴らしい言葉ではありませんか。
ひっそりとした空気、足音すら聞こえてくるような静寂、
そして何よりも、道ばたに咲く野生の水仙にまで目を向けられるほどの、落ち着いた雰囲気。

そう、この"雰囲気の描写"こそが村山さんの真骨頂なのですよ。
小説に置いて、「映画のような表現」というのは比較的簡単に出来るのです。
つまりその場の「映像」と「音」を「言葉」で表現することですね。
実際に物語を書いたことのある方はわかると思うのですけど、
これは簡単なんです。いや本当に。

しかし上記の村山さんの文章のように、
「足音が聞こえてくるほどの静寂」や「道ばたに咲く花」までをも、
これほど見事に描写することは実に難しいのですよ。

試しに、「自宅から最寄り駅までの道のり」を想像してみて下さい。
その道のりの中で、「壁のポスター」や「道端に咲く野草」、あるいは「自動車の通り過ぎていく音」や「朝の独特の静謐感」までをもちゃんと想像できた人はどれだけいたでしょう?

つまり、そういうことなのです。
村山さんは僕たちが日常の中で見過ごしてしまいがちな、
何でもない事象(花や風の匂い、あるいは陽光の温かさでも良い)を巧みに見つけ出し、
そしれそれを冗長と感じさせない絶妙なバランスで、
さりげなく情景描写の中に織り交ぜてくるのです。

その織り交ぜてくるタイミングや文章量、そして筆致その物が非常に素晴らしくて、
いま主人公が歩いている道を、まるで自分自身も歩いているかのような錯覚を覚えてしまうのです。

村山由佳さんは、直木賞作家です。
しかし同じ直木賞作家である桜庭一樹さんと違い、
村山さんの主な活躍の場は文芸作品中心であり、
ラノベに親しんでいる皆さんは「とっつきにくい」と感じられるかもしれません。

しかし、この「キスまでの距離」は村山さんが中高生を主なターゲットとして世に出した小説であり、そのためか非常に読みやすい文章となっています。
直木賞を射止めるほどの実力派作家が紡ぎだす言葉の奔流を体験するには、
これ以上ない入門書といえるでしょう。

シナリオの良し悪しだけでなく、本から淀みなく漂ってくる「空気」をも感じ取れる、
そんな瑞々しい感性溢れる小説「キスまでの距離」を、
ぜひ皆さんも体験してみてください。





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