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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第一章~蜜月~

正徳一九年(二○○七年)九月十三日(木) [4]


「ありがとう、助かったよ」



公園のベンチに座り、KAITOはミクに礼を言った。

公園に着いてからミクは手品を子供達に披露し続けていたが、

三〇分ほどすると手品に飽き始めた数人の子供が缶蹴りを始め、

今では子供達全員が男女入り交じって缶蹴りをしている。



子供達から解放されたミクもKAITOの隣に腰を下ろし、

公園中を駆け回る彼らの姿を眺めながら、言葉を返した。



「いえ、私の方こそ差し出がましいことをしてしまってごめんなさい。ご迷惑ではありませんでしたか?」

「迷惑だなんてとんでもない。子供達は利かん気でね、団体行動をさせるのにいつも苦労するんだ」



表情無く語るKAITO。

しかし彼の言葉の節々には、子供達への慈しみの情が豊かに込められている。



「それにしてもあの手品は見事だった。あの知識と技術はどこで?」

「あれはプレインストールされてるんですよ。

 私は介護用途として設計されたので、ベビーシッターの機能も搭載されてるんです」

「なるほど、手品の技術は子供達をあやす機能のひとつなのか。

 君があれほど子供達を宥めるのがうまいことにも、それで合点がいった」

「あの、KAITOさんはどうしてこの街に?」



個人向け介護用途アンドロイドとして生産されたミクと違い、

KAITOは企業向け警備用途アンドロイドとして生産されている。

従って彼らの業務は警備や警護などが主となり、

彼らを所持するのも個人ではなく企業や法人団体である場合が殆どだ。



そんな彼らは、大企業に専属警備員として配備される場合もあるが、

警備会社ALKOSが手がけるリース契約サービスとして提供される場合も少なくない。

これは、警備サービスを必要とするものの

専属警備員を配備する余裕がない中小企業向けに始められたサービスで、

クリプトンがALKOSと業務提携することで実現したサービスだ。

ALKOSがクリプトンからKAITOをOEMし、

リース契約の場合にはALKOSのリース下請け会社へ販売する形で顧客と契約を取り交わす。



ミクもKAITOにまつわるビジネス商流についてはある程度の知識を得ていたため、

KAITOを利用している法人団体はどこなのか、という意図で質問したのだ。



「僕はね、町内会会長の貝瀬氏による個人リース契約で、この町で警備業務に携わっているんだ」

「ええっ!」



思わずミクは驚きの声をあげてしまった。

いくらリース契約サービスが中小企業向けとはいえ、

とてもではないが個人が負担できる金額ではない。

三年間のリース契約でも、新車一台分の金額はかかってしまうのだ。

驚くミクの疑問を察したのか、KAITOが言葉を続ける。



「契約しているのは確かに貝瀬氏個人によるものだけど、

 さすがに金銭面まで全てを負担しているわけではないらしい。

 商店街の皆さんから聞いた話では、町内会の皆からカンパして、何とか工面したみたいだ」



「・・・それでも、きっと、とても大変だったでしょうね」



「ああ、僕もそう思う。決して安い金額ではないしな。だけど、僕はとても嬉しいんだ」



「何がですか?」



「それだけ大きな負担を背負ってでも、人々は街の安全を願っているという事実がさ。

 『誰かがやってくれる』『自分がやらなくても構わない』、

 そんな他人任せな考え方に終始するのではなく、

 自分自身の、自分たちが住んでいる街全体の問題として捉えて、

 自分に出来る限りのことを行おうというその精神は、とても崇高なものだよ」



KAITOは言葉を続ける。



「僕が起動して、貝瀬氏に初めて面会したとき、彼はこう言ったんだ。

 『まず、子供達を守るために登下校の送迎をしてやってくれ。

  次に、女性が一人で歩けるように夜の巡回をしてくれ。

  厄介な客をつまみ出したり、万引きを捕まえたりなどは片手間で構わん。

  とにかく、子供と女性の安全を最優先に考えて行動してくれ』とね。

 僕は貝瀬氏を尊敬するよ。

 僕のような雇われの警備員に対して、収益を見込めそうなエリアの警備をさせるのではなく、

 あくまで弱者のために力を尽くしてくれ、と開口一番に言ったのだから。

 僕は弱者を守ろうとする貝瀬氏の理念も、

 そして彼を責めようとしない街の人々の気高い意識も、本当に素晴らしいと思うんだ」



そんな敬愛に満ちた言葉とは裏腹に、KAITOの表情には何の感情も浮かんでいない。

警備型アンドロイドとして開発された彼らは、

人間と最低限のコミュニケーションを交わすための機能しか備えられておらず、

ミクほど高度な情動プログラムは搭載されていないのだ。



しかしKAITOの言葉には人々への敬意の念に溢れ、

それは彼の胸中に蓄積された紛う事なき本心であり、

行動の指針となっていることを充分に察しさせるものだった。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」九月十三日[5]

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