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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第一章~蜜月~

正徳一九年(二○○七年)十月七日(日)[2]






一度家事を始めてしまえば、徹底的にやらないと気が済まないのは昔からの性分だ。

皿洗いを終えてからシンクを掃除し、コンロを磨き、排水溝の掃除まで終えると、

換気扇の油汚れまで洗い落としてきた。



そうして一通りの掃除を終えて手持ちぶさたとなった星登は、

気まぐれにアパートの庭へ下りてみた。

この庭へは久しく足を踏み入れていなかったが、相変わらず見事な花模様を彩っている。

庭に入って最初に星登を迎えた花壇では、

濃い赤紫のサフィニアと、赤と白のコントラストを花弁に飾り付けたペチュニアを中央に置き、

薄いピンクを淡彩したインパチエンスが花壇の中で点々と花弁を綻ばせている。

花の色彩に目を奪われていると透き通った風が星登の頬を通り過ぎ、

庭の植え込みの葉をさわさわと揺らした。

昨夜降った雨のために植え込みはしっとりと濡れ、

少し強い風が吹く度にきらめくしずくをぱらぱらと地面に振り撒いていた。



庭の奥に位置している花壇の前で、ミクが子供達と戯れている。

どうやら簡単な手品を教えているようだ。

そんな彼女たちを何とはなしに眺めていると、大家の文代が背中から呼びかけた。



「珍しいね。緒方さんが庭に来るなんて」



「大家さん。いつもミクがお世話になってます」

星登は軽い微笑を浮かべつつ挨拶する。

「相変わらず見事なお庭ですね」



「ありがとう。最近はこのお花たちが何よりの楽しみになっててね」



「その花の世話についてですけど、ミクが大家さんのお手伝いをさせてもらっているとか・・・

 すみません、ご迷惑ではありませんか?」



「いやいや、そんなことはないよ。ミクちゃんがいつも手伝ってくれるものだから、

 最近は本当に楽しくやらせてもらってるのよ。

 それにこの前は肥料蒔きまで手伝ってもらっちゃってね。

 あの作業が年寄りには思いの外きついのよ。土も重いしさ」



文代はくしゃりと表情を崩して微笑む。



「それにね、この前あの子が子供達を叱ってくれたことがあったのよ。知ってる?」



「いえ、何も。・・・何かあったんですか?」



「私が言うのも何だけどさ、うちのお花はそこらの公園なんかにある花壇よりもずっと立派だろう?

 だから子供がうちのお花を何輪か摘もうとしてたんだけど、

 それをミクちゃんが見つけたんだよ。

 そしたらね、あの子は子供にこう言ってくれたんだ・・・」





 ミクは花を摘んでいた子供と向かい合っている。

 子供と視線を合わせるため、ミクは膝をついて子供の顔を正面から見ていた。

 

 「ねぇのりちゃん? どうしてお花を摘もうと思ったのかな?」

 

 ミクの声音は優しい。

 子供を怖がらせるのではなく、説き伏せるのでもなく、

 あくまで行いの意味を理解させるための声音だった。

 

 

 「だって、お花が綺麗だったから、これをお母さんにも見せてあげようと思って・・・」

 

 「・・・そっか。のりちゃんはお母さん想いの、優しい子だね。

  でもね、のりちゃんはお花さんの立場になって考えてみたことはある?」

 

 「・・・お花の?」

 

 「そう。ここでいっぱい咲いてるお花さんは、ずっとずっと、種だったときから、

  他のお花のみんなと一緒にいたんだよ?

  お母さんやお父さんに囲まれて、お友達もいっぱいいて、そんな中ですくすくと育ってきたの」

 

 「・・・・・・」

 

 「だからのりちゃんに摘まれちゃったら、このお花さんは寂しい寂しいって泣いちゃうよ?

  お母さんとお父さんも悲しんじゃうし、お友達もシクシク泣いちゃう。

  のりちゃんも、突然お母さんお父さんとお別れだって言われちゃったら、寂しいよね?」

 

 「・・・・・・うん、すっごく寂しい」

 

 「そうだよね? だから、お花さんにごめんなさいって謝って、このお花を元に戻してあげよう?」

 

 少女はミクの善導に素直に従った。

 翌日、少女は綺麗なお花を見せてあげると言い、母親を連れてやってきた。



初音ミクSS「君の心は、そこにある」十月七日[3]へ

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