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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第一章~蜜月~

正徳一九年(二○○七年)十月七日(日)[3]
「・・・そんなことがあったんですか・・・」



文代の話が一通り終わって、星登はそのような呟きを漏らした。

星登の視線の先にはミクがいる。

子供達と一緒に戯れる、ミクの姿が。



文代もミク達に視線を向けながら、感情を豊かに込めて呟く。



「あの子はね、ああやって子供たちと同じ視線で、

 心の底から一緒になって楽しんで、笑って、時には叱ってあげたりできる子なんだ。

 今時あんなに素直で良い子は、人間にだっていないさね」



「・・・僕も、そう思います」



それは無意識に紡がれた言葉ではあったが、それでも星登の本心に他ならなかった。

彼女の気遣い、心遣い、そして何よりも彼女の笑顔に、どれほど心安らいだことか。

ミクと生活を共にすることで、星登が孤独を弄ぶ時間が急激に減った。

ただそれだけで、星登の計り知れないほど巨大な寂寥はいっきに影を潜めたのだ。



安らぎ、安堵、安寧、静態。

ミクと共にいるだけで、これほど心安らかで、平穏な生活を送られる日がこようとは夢にも思わなかった。

ミクの存在は星登の心を、柔らかい毛布で包み込むような優しさと温もりで、緩やかに癒し続けてくれたのだ。



「あ、星登さん!」

ようやく星登の姿に気づいたのか、ミクが駆け寄ってきた。

「ホラホラ、こっちに来てみてください!」



ミクは星登の手を掴むと、庭の奥に連れてきた。

彼女にしてはかなり強引な行動に、少し面食らってしまう。



「ど、どうしたの?」



「これ! これを是非見ていただきたかったんです!」



そうしてミクが指差したのは、一鉢のプランターだった。

本葉を宿した芽が数センチ間隔で植えられている。



「これ、私が植えたお花なんです! 種を蒔いて、肥料も何度か追肥して、

 先日とうとう芽が出たので、こうしてプランターに移植したんですよ!」



「へえ、凄いじゃないか」



星登は一葉の芽に指を伸ばす。

しっとりと湿った葉は頼りない姿にも関わらず、星登の指を意外なほどの力強さで弾き返した。



「で、これは何て言う花なんだい?」



「う、そ、それは・・・」



突然口ごもるミク。

そんなミクを見て文代がケラケラと笑っていた。



「んもうっ! ひどいんですよ星登さん!

 大家さんたら、私が植えたお花が何なのか教えてくれないんです!」



そうなんですか? と疑問を投げながら文代へ振り向く。文代は悪びれずに答えた。



「いやね、そのお花が何の花なのかは、実際に咲いてみてからのお楽しみだって言ってるんだよ。

 でも確かに、少し大人げないかなとか、そろそろ教えてあげても良いかなあとか、

 思わないこともないのよ、いくら私でもね」



「「それなら、どうして?」」



星登とミクの疑問がステレオとなって重なる。



「そんなの、」

そこで文代は溜まらず吹き出した。

「ミクちゃんの困る顔が可愛らしいからに決まってるじゃないか」



そう言って、また文代は遠慮無しに笑い始めた。

そんな文代の姿と、文代の仕打ちに不満を隠さずむくれっぱなしのミクの姿は余りに対照的で、

星登は苦笑せざるを得なかった。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」十月七日[4]へ



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