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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第一章~蜜月~

正徳一九年(二○○七年)十月七日(日)[4]

「ねえねえ、ミクお姉ちゃん」



少女がミクの袖を引っ張りながら呼んでいる。



「ん? どうしたの?」



「私たち、公園へ遊びに行こうと思うの。

 そろそろトシヤお兄ちゃんも来てくれる頃だと思うし。

 ミクお姉ちゃんも一緒に行こ?」



「え? ええ、と・・・」



良いのかな、さすがにまた遊びに行くと星登さん怒るかも・・・。

さっきもお皿洗いを星登さんにお願いしちゃったし、まだ公園に行きたいなんて言うのは虫が良すぎるよね・・・。



という思考状況が逐一顔に表れるミク。つくづく隠し事ができない娘だ。



「良いよ、行っておいで」

星登が告げる。

「その子達の送迎も兼ねてね」



「あ、ありがとうございます!」

ぱっと表情を輝かせ、ぺこりとお辞儀するミク。

「なるべく早く帰りますから」



「いや、そんなに慌てなくても良いよ。ゆっくりしていってね」



もう一度星登にお辞儀をして、ミクは子供達と共に庭を出て行った。

彼女らの後ろ姿を見送ってから、文代が呟く。



「良い子だねぇ、本当に」



「ええ、僕もそう思います」

星登は万感の思いを込める。

「ミクがいてくれて、本当に助かってますよ。本当に」



「わかってるわよそんなこと、最近の緒方さんを見てればね。

 あなた、ここんとこ本当によく笑うようになったもの」



「え、そうですか?」

言って自分の頬をぺたぺたと触ってみる。

「自分ではなかなか気づけませんけど、・・・というよりも、以前の僕はそんなに無愛想でした?」



「無愛想、ていうんじゃないけど、何て言うか・・・笑うことが辛そうだったよ、あんたは」



ぐ、と息を詰まらせる星登。

確かにミクが来る前の自分は寂寞の極致にいた。

余裕など微塵もなく、ただ日々の寂然をいかに過ごし通すか、

それだけが星登にとっての日常だったのだ。

精神的支柱を失い、同時に笑う余裕すらも失って、

ただ途方に暮れるままの生活を送っていたあの頃。



「初めてミクちゃんを見たときにはね、そりゃもうビックリしたわよ。

 本当に早輝ちゃんそっくりで、生き写しかと思ったくらいさね」



文代は大げさに抑揚を付けながら続ける。



「今だから正直に言うけど、私はちょっと不安だったのよ。

 緒方さんは全然立ち直れていないんじゃないか、

 早輝ちゃんそっくりのアンドロイドを買ったりして、

 前を見て歩くことが全然出来ていないんじゃないかってね」



星登は文代の言葉を厳粛に受け止める。一呼吸置いて文代は続けた。



「だけどそれも杞憂だったよ。今のあんたを見てれば、本当にそう思える。

 ミクちゃんが来てくれてから、柔らかく、自然に笑えるようになったもの。

 以前のあんたなら、いつも疲れているような表情しかできなかったのにさ」



「それはひどいなあ」

星登は苦笑いを浮かべながら答える。

「でも実感はしてますよ。確かにあの頃の自分はひどかったと思います。

 色々な意味で余裕を無くしてましたからね。だからこそ、」



言って星登は視線を落とす。

足下にあるプランターに、ミクが育て芽吹かせた本葉に。



「ミクには本当に感謝しているんです。

 あの子のお陰で変わることが出来たと、他でもない僕自身が思っているんですから」



一陣の風が星登の髪を揺らした。

同時に植え込みの葉も存分に揺らし、昨夜の雨のしずくをぱらぱらと落として、

乾いた土に湿った黒点をまばらに描いた。



「ところで、緒方さん」

のびをしながら文代が言う。

「ちょっとうちでお茶でも飲んで行かないかね?

 この前美味しいようかんをもらってね、食べておいきよ」



「良いんですか? それじゃぁ、お言葉に甘えて」



そうして星登は文代に連れられて庭を出た。

見上げると空は透き通るような青に彩られ、ところどころに白い雲が朧気に浮かんでいる。

上空では風が強いのだろうか、空と雲の境界は薄いレースのように曖昧に溶け込んでいた。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」十一月三十日[1]へ

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