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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第一章~蜜月~

正徳十九年(二○○七年)十二月二四日(月)[1]



星登の病が快復してから街はいよいよ様々なイルミネーションに彩られ始め、

今日という日にそれはピークに達した。

さらさらと包み込むような雨滴がアスファルトに無数の波紋を描いては消えていく中で、

駅前の大通りはリズミカルな音楽と色とりどりの飾り付けに身を染め上げ、

どこか暗澹とした色を孕む空と反目するかのように、

地上では街の彩りと共に人々の表情にも明るいそれが零れ始めていた。



初冬を迎えて久しい十二月下旬、通年多様な色彩に恵まれるアパートの庭も、

さすがにこの時期はひっそりとした空気に包まれている。

唯一、日なたになるよう植え付けられたクリスマスローズの花が、

白を基調とした淡緑の花弁をそっと俯かせながら咲いているものの、

冷たく柔らかい雨に身を晒しながら植えられているその様は、

より物寂しい感傷に捕らわれてしまう。



ホワイトクリスマスまでをも望むつもりはないが、

それでも生憎の空模様と言わざるを得ない曇天を一瞥し、

窓の下に広がる庭の景色を眺めてから、

星登は台所で朝食の片付けをしているミクに声をかけた。



「ミク、今日はどんな予定だい?」



「今日ですか?」

手を止めず、視線だけを軽くよこしながら答える。

「のりちゃんたちと遊ぶ約束もしてませんし、特に何もありませんよ。

 どうしてですか?」



「いや、たまには二人でデートでもしないかと思ってね」



瞬間、台所からガラガラン、と重く大きな音が響いてきた。

フライパンをシンクに落としてしまったようだ。



「だ、大丈夫かい?」



たまらず星登が声を掛ける。



「はい、はい、だ、大丈夫です! お皿は割れてませんよ!」



「いや、皿じゃなくて、心配なのはミクなんだけど・・・」



「あ、はい、私も、だ、大丈夫です!

 大丈夫なんですけど、そ、その・・・星登さん、どうなさったんですか突然?」



視線は手元の食器に固められていたが、ミクの声には明らかに動揺の色が滲んでいる。



「いや、突然じゃないさ」

星登はさも当然というように答える。

「この前僕が倒れてしまったときにも、ミクはずっと僕を看病してくれたろ?

 それだけじゃなくて、ミクには本当にいつも世話になってるし、日頃の感謝の気持ちも込めてさ、

 今日は一日どこかミクの好きなところへ遊びに行こうと思ってね」



良いながら、星登はハハ、と少し自嘲気味に笑って言う。



「本当はもっと早くお礼をしたかったんだけどね。

 休日出勤が続いたからこんな雨の日に言い出すことになっちゃったけど。

 ごめんね、遅くなって」



星登の勤務する建機専用リース会社の業務は、

建機を実際に使用する工務店の業務の影響を直に受けてしまう。

悪天候が続けばそれだけ工期が延びてしまい、

建機リースの契約も更新が必要となってしまうからだ。

今年は何の嫌がらせか、秋には台風がそれほど上陸しなかった代わりに十二月に悪天候が続いてしまい、

その影響で何度か休日出勤を余儀なくされてしまった。

しかも年末の慌ただしさは変わらぬため、今月は二重三重に業務が重なってしまい、

目が回るほどの多忙を極めたのだった。



「で、ですけど、その、・・・私なんかが星登さんと、で、ででデートだなんて・・・その・・・」



ミクの声は語尾に近づくほど小さくなり、

最後の言葉は皿洗いの音にかき消されて、星登の耳には届かなかった。



そこで星登はようやくある事に気づく。

部屋の中からミクの後ろ姿を見る限りでは、

彼女はどうやら一枚の食器をずっと洗い続けているらしいのだ。

たかが食器をそこまで丁寧に洗う必要があるのだろうかと訝しく思うものの、

とりあえずその疑問は片隅に追いやって、星登は言葉を続けた。



「そんなに深く考えなくても良いんだよ。

 これは僕からのお礼なんだからさ。

 ミクが欲しいもの、ミクが行ってみたい場所、

 ミクが見てみたいもの、何でも良いから、言ってみてくれないかい?」



「え、えーと・・・・・・」



途端にミクは言葉を濁し始めてしまった。

そこに至って、星登はようやくミクという少女についての性格を思い出し、内心頭を抱えてしまった。



彼女は極端に、自分の願望を口にすることを嫌うのだ。

ミクと共に暮らし始めてからもうすぐ丸四ヶ月、

少女が希望らしい希望を星登に告げたことなど一度もなかった。



ミクが余りにも遠慮深く部屋に佇み続けているため、

星登は一時、アンドロイドというものは欲望と呼ばれる感情を抱かない設計が

最初から為されているのかと考えた程だ。

だが、彼女が近所の子供達と遊びに行くときや、庭の花を愛でているときの様子を見ていれば、

ミクが星登たち人間と同じ『欲求』という感情を抱いていることは容易に見て取れた。

そう、彼女は『欲求』という感情を理解し、何かを『欲する』という行為もとれる筈なのだ。



だが、星登はミクが願望を口にしたところを未だに見る事が出来ずにいる。

それは単なる遠慮とは何かが違う、決定的な隔たりであり、距離感であった。



だから星登は、ミクの『行きたい場所』ひとつ聞き出す事さえ、

話し方に少し工夫を加えなければならなかった。

しかし大それた工夫など必要ない。

元来人の本音など容易く聞き取れるものではないし、

少女の内懐を何の努力もなしに掴みたいと考える事こそおこがましいと言える。

ただ、ミクの胸中でふわふわと浮いている『本音』をすくい上げるには、

ほんの少し他の人と方法を異にするだけの話なのだ。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」十二月二十四日[2]


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