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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第一章~蜜月~

正徳十九年(二○○七年)十二月二四日(月)[5]



二人がカラオケボックスから退店したころには、

すっかり日も暮れて街灯の明かりが道を照らし、

雨はアスファルトに痕跡を残したまま、天から零れ落ちてくる事もなくなっていた。



自動ドアを抜けた途端に襲いかかってくる寒気に身を震わせながら、二人は並んで道を歩いていく。

その表情は清々しい笑顔に満たされ、どこか浮かれたような陽気さをも孕んでいるようだった。



「今日は楽しかったかい、ミク?」



星登が尋ねる。



「はい、とっても!」

すかさずミクが返事する。

「初めてカラオケボックスに来たんですけど、すっごく楽しいところなんですね!

 あんなに沢山の曲を歌う事ができるなんて夢のようです!

 いくら時間があっても足りません!」



「そんなに気に入ってくれたなら良かったよ。

 僕もミクの歌を聴けて凄く楽しかったしね。

 また折を見て、一緒にカラオケに来てくれるかい?」



「はい! そのときには是非!」



興奮冷めやらぬ様子で、元気に答えるミク。

星登の申し出は、遠慮深いミクが『またカラオケに行きたい』と自分から言えぬであろうことを予想して、

敢えて誘うように切り出したのだが、

そんな星登の心遣いに気づく様子もないままミクは笑顔を向けている。



そんな折、ふと星登はカラオケボックスの隣にある店舗のことを思い出した。

そしてそこで取り扱っている製品を考え、思案を巡らせる。



「ねえミク、ちょっと寄っていきたい店があるんだけど、良いかな?」



「ええ、勿論構いませんよ。どこへ行くんですか?」



そして二人は件の店に入った。



そこは若い女性向けのインテリアやアクセサリを各種取りそろえた雑貨店である。

店内に足を踏み入れた瞬間、整然と並べられた種々のインテリアに目を瞠るミク。

それらはどれもがシックな印象の中に煌びやかさを併せ持って、

どこか格式高い雰囲気を自然に滲み出しており、

気後れさせてしまう圧力にも似た不思議な魅力を存分に放ち続けていた。

しかしそんな高圧的とも言える強い魅力に充ち満ちた店内で、

流れている有線の曲が定番のクリスマスソングだったため、

それだけで親近感に似た愛着を種々のインテリアに懐いてしまうのだから、我ながら現金な物だと思う。



店内に並べられたインテリアに目を奪われるミクに、星登がそっと声をかける。



「今日買おうと思ってるのはこれじゃないんだ。こっちにおいで」



そして二人が訪れたのは、女性向けアクセサリーの取り扱いコーナーだった。

そこには可愛らしいピアスやネックレスをはじめ、

シュシュやワンポイントをあしらったヘアゴムなどが並べられている。

そして隣の売り場ではそれらアクセサリーが映える派手すぎないニットカーディガン、

シックなストールなども陳列されていた。



星登は女性店員と二言三言言葉を交わすと、ミクに向き直った。



「ミク、ちょっとこっちへ来てごらん」



言われるまま素直に従うミク。



「ほら、ここに並んでるやつとか可愛いじゃないか。

 ミクは髪の毛が長くてボリュームあるから、こういうものがあると便利だろ?」



そう言いながら星登が示しているのは、

花の模様やアクセサリーがあしらわれた髪飾りの陳列棚だ。

ブルーデイジーやチューリップをワンポイントとして形作ったヘアピン、

ピンクを基調としたシルバーヘアピン、

アジサイの花びらをそろりと乗せたような透明感のあるヘアゴムなど、

華やかでありながらしとやかさも併せ持ったアクセサリーが所狭しと並べられている。



「ミク、どれか気に入ったものはあるかい? どれでも好きな物を選んで良いんだよ?」



「・・・え、え?」



未だ状況を把握できずに困惑するミク。

現状を図りかねているミクに、星登が思惑を説明した。



「今日のカラオケは、ミクへのお礼のために思いついたんだって事は今朝話しただろ?

 だけどせっかく二人で出かけたのに、

 何も形に残らないまま今日を終わらせてしまうのは勿体ないと思ってね。

 今日はクリスマスだし、ささやかだけれど僕からのプレゼントを贈りたいと思ったんだ」



照れているのか、星登は頬を指で掻きながら話を続ける。



「それで何を贈れば喜んでくれるかなって思ってさ、

 そうして考えているうちにミクはメルトの女の子のことを凄く気に入ってたことを思い出して、

 それなら彼女とお揃いの『お花の髪飾り』を贈ろうって、そう思ったのさ」



そして視線をミクに戻す。



「・・・もしかして、もっと他のプレゼントの方が良かったかな?」



「そ! そそそんなことは決してありません!」

ぶんぶんと勢いよく首を振るミク。

「ただ、その・・・・・・普段からお世話になっているのは私の方ですし、

 それに今日はカラオケにも連れて来てくださったのに、

 これ以上星登さんにご負担をかけてしまうのは、その・・・・・・」



そのまま口ごもって、遂に黙ってしまうミク。

半ば予想していたこととはいえ、

慎み深いと言うには気兼ねが過ぎるミクの姿に、苦笑してしまう星登。

ミクが自分から欲しい物を告げられるとは思っていなかったため、

星登は少し強引に商品を選んでしまった。



「こっちの色は青が強すぎて目立たないよなあ、

 こっちは色は良いけど少し飾りがおとなしすぎるし・・・・・・、

 うん、これなんか似合うんじゃないかな? 試しに付けてみてごらん」



そうして星登が手に取ったのは、白いマーガレットが二輪あしらわれたヘアピンだった。

星登にうながされ、戸惑いながらも何とかヘアピンを髪の毛に飾り付ける。



「あ、あの、星登さん・・・これ・・・・・・」



「ほら、鏡を見てごらん。きっとミクも気に入ってくれると思うんだ」



星登は強気に薦め、その勢いのままミクを鏡の前へと連れてきた。

彼女は己の髪に留められたヘアピンの感触を指で確かめながら、鏡面を確認している。

そこに映り込んでいるのは、マーガレットの髪飾りを留めて、

夢見るような面持ちではにかむ彼女自身だ。

瞬間、一気に頬を紅潮させて、照れを隠すかのように鏡から離れてしまう。



しかし彼女の表情を見れば、それが不快から出た反応ではなく、

素直な言葉で表現出来ない独特の恥じらいを帯びていることは明白だった。



「そ、その・・・これ・・・」



ミクがあやふやな言葉を何とか絞り出す。



凄く嬉しいのに、素直にそれを口にする事が出来ない。

そういう感情は星登もかつて何度も経験した事がある。

嬉しくもあり、だけどそれと同じくらいに恥ずかしい。

何とも説明しがたい複雑な喜びを弄びつつ、しかし決して不快でもない、その想念。



己の髪に留められた髪飾りを確かめながら、

しかし星登の反応も気になって上目遣いにチラチラと表情を盗み見るミクの姿は、

何とも言えぬ愛らしさを浮かび上がらせていた。

自らの胸の内を抑え込み、本音というものを言葉にしない彼女は、

きっとこの髪飾りを素直に欲したりはしないだろう。



しかし星登には分かっていた。

ミクがこの髪飾りを大層気に入り、恍惚とした表情を滲ませてしまう程に欲している事を。

そして鏡に映る自分の姿と星登の表情を交互に見やる彼女が、

今どのような言葉を欲しているのかも。



だから星登は告げるのだ。

本意を決して口にしない代わりに、嘘をつく事がとても下手な、愛くるしく可憐な少女へ。



「とても似合ってる。凄く可愛いよ、ミク」



星登の率直な感懐に、ミクは陶酔したような表情の中に恥じらいを織り交ぜながら、ただ俯き頬を染めていた。

初音ミクSS「君の心は、そこにある」十二月二十四日[6]


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