スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

初音ミクSS「君の心は、そこにある」第二章~懸想~

正徳二十年(二○○八年)一月九日(水)[3]


その日の夕方。



ミクは商店街へ買い物に出かける前に、

トシヤと子供たちがいつも下校途中に立ち寄る公園へと足を運んでいた。



公園に入ると、壁に向かって数を数え上げているトシヤの姿を見つけた。



「九十八、九十九、百! もういいかい?」



続いて、もういいよ、という元気な声が公園中から返ってきた。

くるりと振り返ったトシヤは、そこで初めてミクの到来に気づいたのか、

穏やかな口調で話しかけてきた。



「やあミクちゃん、こんにちは。これから買い物かい?」



「ええ、今から商店街へ行く所なんです。

 それで、実はご相談させていただきたいことがあったんですけど・・・」



「ああ、構わないよ。そこのベンチで話そうか」



「い、いえ、良いんです。だって、今はかくれんぼをなさってるんですよね?

 私の用事は後で結構ですので、早くみんなを見つけてあげてください」



「そうかい? すまないね、それじゃあまた後で話をしよう。

 どうも僕はかくれんぼが不得手でね、みんなにすぐ見つかってしまって、

 こうして何度も鬼をさせられてしまうんだ」



そう言い残して、トシヤは手前にある植え込みの藪の中を探し始めた。

確かに、体が小さくすばしっこい子供を見つけるよりも、

体格の大きいトシヤを見つける方が簡単そうだな、とミクは思った。





「悪いね、待たせてしまって」



トシヤがそう言いながらベンチに座るミクの傍らへやってきたのは、

それから三十分程過ぎてからだった。

その間にトシヤはもう二回鬼をさせられてしまい、

結局罰ゲームとしてみんなにお菓子を奢らされていた。



「はい、待たせてしまったお詫びに」



そう言って差し出されたのは缶コーヒーだ。



「いえそんな、お気遣いなさらなくても・・・!」



「いや、良いんだよ。みんなに肉まんやお菓子を奢ってしまった後だしね。

 一人分のコーヒーが増えたとしても大して変わらないさ」



そう告げるトシヤの表情にはいつも通り何の変化も浮かべられていなかったが、

しかしその口調には穏やかな情念がゆるりと乗せられている。



ミクは礼を言いながら缶コーヒーを受け取った。

缶を握る手のひらが心地よい痺れと共に温められていく。

プルトップを開けると、コーヒー独特の香ばしい薫りが鼻孔を軽やかにくすぐった。

一口含める。

瞬間、苦みと旨みが舌の上を流れ、

温かなコーヒーがゆっくりと胸の奥へ沈んでいくのを感じた。



トシヤもミクの隣に腰掛ける。

そしてトシヤは、自分用に買ったアイスを頬張り始めた。

それを見たミクはさすがにぎょっとしてしまう。



「トシヤさん、この時期にアイスなんか食べて、寒くないんですか?」



言われたトシヤは不思議そうな眼差しをミクへ向ける。

そしてアイスへ視線を戻したとき、ようやく合点がいったような表情を浮かべた。



「ああ、確かに冬にアイスを食べるのは季節外れかもしれないね。

 ・・・だけど僕は、このアイスというお菓子をひどく気に入ってしまってね。

 寒いとか関係なしに食べたくなってしまうんだ。

 もし気を悪くしたなら、なるべくミクちゃんの前では控えるようにするけど・・・」



「いえ、気を悪くするなんてとんでもない! こちらこそ余計なこと言ってしまってすみません!」



ぶんぶんと慌ててかぶりを振るミク。

そんなミクを見て、トシヤは安心したようにおもてを崩し、またアイスに口をつけ始めた。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」一月九日[4]へ

関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

eosnej

プロフィール

缶

Author:缶
SS書いたり読書感想文書いたり仕事のあれこれを勝手気ままにダダ漏れさせる予定のようなそうでないような。

缶のTwitterアカウント

缶のpixivアカウント

オススメ!

最新記事
リンク
ブログ内検索
カテゴリー
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。