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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第二章~懸想~

正徳二十年(二○○八年)一月九日(水)[4]


トシヤは、今日のように子供たちと一緒に遊んでは、

そのたびに罰ゲームとしてお菓子を奢らされてばかりいる。

先ほどトシヤは『かくれんぼは苦手』などとうそぶいていたが、

警備用途アンドロイド『KAITO』として設計・開発されたトシヤが、

かくれんぼが苦手などということがあるはずもない。



『KAITO』設計時に想定している本来の顧客は個人ではなく企業であり、

主な業務内容も要人警護や貿易港の警備など、非常に繊細で注意深い仕事ばかりなのだ。

追っ手を振り切ろうとする不審人物や海外からの密航者、

あるいは密輸などをいち早く発見し取り締まることが彼らの主たる任務なのである。

そんなトシヤが、子供たちとのかくれんぼで後れを取ることなどありえない。



いや、だからとも言えるだろうか。

トシヤが本来持っている種々の機能は人間のそれとは比べるべくもないからこそ、

彼が子供たちと遊ぶときには敢えて機能の一部をスリープさせているのだ。

視覚や聴覚などの感覚機能や純然たる運動機能など、

スリープできる能力は出来る限りスリープさせることで、

トシヤは自分自身の能力を一般的な子供のそれへ近づけようとしていた。

そうすることで、トシヤは子供たちとあくまでフェアであろうとしているのである。



ミクはトシヤの生真面目さに苦笑してしまう。

手加減なしで子供たちの相手をすることは確かに大人げないかもしれないが、

それでもここまでストイックに子供と対等であろうとする姿勢は、

トシヤなりの子供たちに対する誠意というものだろう。

例えその結果、子供たちから罰ゲームとしてお菓子を奢る事になってしまっても、

そういった事態をも含めてトシヤは子供たちとの触れ合いを楽しんでいる様子だった。



お菓子を食べ終わった子供たちは、誰かが持ってきたボールを使ってサッカーを始めた。

そんな彼らの姿を何とはなしに眺めながら、ミクは口を開いた。



「あの、トシヤさん・・・実はご相談したいことがあるのですけど・・・よろしいですか?」



「ああ、どうしたんだい?」



「・・・・・・あの、トシヤさんは、・・・・・・その・・・、」



「・・・?」



「・・・・・・その、誰か特定の人に、・・・と、特別な思い入れを感じたりとか、・・・ありますか?」



「え? 思い入れ、かい?」



言ってから、ミクはしまったと後悔の念に晒された。

『恋』という単語を使うにはまだ少し抵抗があり、

何よりも若干の面映ゆさがあったため『思い入れ』などという曖昧な言葉を使ってしまったが、

これでは期待している回答など望める筈もない。

だからと言って今更訂正するのも不自然だと、ミクが内心で慌てふためいている間に、

トシヤは彼なりに己の胸中を見つめ、ミクの相談に対して真摯に答えようと思考を巡らせていた。



「思い入れ・・・か。うん、確かに思い入れと呼べる情動は感じているよ」



「え!?」



思いも寄らぬトシヤのいらえに驚愕の声をあげてしまうミク。



「子供たちを前にしているとね、充足感と呼べば良いのかな、そういう感覚を覚える事はある。

 子供たちと遊んで、彼らの笑顔を見て、元気に家へ帰っていく姿を見送るとね、

 子供たちのためにも、この街のためにも、業務を遂行していこうという活力が湧いてくるよ」



何ともトシヤらしい回答に、ミクは少なからない失望の色を湛えてしまった。

そもそも自分が『思い入れ』などという曖昧な表現をしたのが悪いのだし、

その質問に大して真摯に答えてくれたトシヤに至らぬ点などあろうはずもない。

しかし理屈では分かっていても、多少なりとも抱いてしまった希望が空振りになってしまったことについて、

ミクは表現できぬ脱力感に見舞われるのだった。



「・・・ごめんねミクちゃん」

トシヤが申し訳なさそうに語る。

「どうやら僕は君の期待には応えられなかったようだ」



「そ! そそそんなことありませんよ!」

慌てて言い繕うミク。

「いえそれよりも、何だかすみません、変なこと聞いてしまったりして!

 そ、それに何と言いましょうか・・・失礼な態度で、本当にごめんなさい!」



ミクは悄然と肩を落とした。

余りの恥ずかしさに身が縮む思いだ。

そういえば、こうして自分が考えている事を相手に悟られてしまう事は今回が初めてではなかった。

初めてではないどころか、トシヤだけでなく星登や文代も、

ミクが考えている事をよく言い当ててみせる。



自分の周囲には何と聡い人物ばかりが揃っていることだろう。

思わぬところで恥をかかぬよう、今度こそ気を引き締めていこうと、何度目か知れぬ決意をしたのだった。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」一月九日[5]へ

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