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初音ミクSS「君の心は、そこにある」一月九日[8]

正徳二十年(二○○八年)一月九日(水)[8]



「ねぇ、でもさ」

コトミはぐいと身を寄せてきた。

「ミクちゃんが本当に相談したかったことって、もしかして恋の悩みだったりするんじゃない?」



「ど、どどどうしてそのことを!?」



ミクは思わず声を上げてしまう。

その慌てふためく様が可笑しかったのか、コトミは表情を綻ばせて言葉を続けた。



「あの質問を聞いたときに、もうそれだけでピンと来ちゃったわよ。

 あぁ、これはきっと恋の悩みなんだろうなぁ、てね。

 むしろそれに気がつかないトシヤが鈍感すぎるくらいだわ」



嬉しそうに語るコトミ。

ミク自身、このことを隠すつもりはなかったし、

むしろ相談するつもりでいたのだから説明する手間が省けたとも言えるが、

それでも何とも言えぬ気恥ずかしさが勝って、結局赤面して俯いてしまった。



そんなミクの様子を見て、コトミは困ったような笑顔を浮かべて謝罪した。



「あらあら、ごめんなさい。

 ちょっと調子に乗り過ぎちゃったみたいね」



「い、いえ、良いんです。

 それにこの事を相談しようと思って、コトミさんに会いに来たんですし・・・・・・」



コトミは、ふっ、と笑顔を和らげ、改めてミクに向き直った。



「それで、相手はどんな人なの?」



ミクは話した。

星登のたおやかな人柄、穏やかで静謐な雰囲気。

少しなよやかな印象を与えがちな外見も、その実頼もしい一軸の芯が通っていて、

ミクが困っているときにはいつも手を差し伸べてくれること。

特にミクが多様な願望を抱いているとき、星登の気遣いと心遣いはしっとりと胸に染み入ってきた。

アンドロイドであるミクは、自らの願望を口にすることは許されていない。

アンドロイドの行動基準は、常にマスターあるいは人間の為にこそ為されなくてはならないからだ。

そういったアンドロイドとしての枷がミクの胸を縛り付け、念願をしまい込んでじっと耐えているとき、

星登はいつもその枷を柔らかく解いてくれるのだ。

さりげなく、自然な振る舞いで。



ミクは、そんな星登の優しさに強く惹かれ、星登の包容力に身を委ねることの喜びを、素直に告げた。



「うん、大体わかったわ」

コトミが仄かに笑いながら告げる。

「ミクちゃんがその星登さんのことを、どれだけ好きなのかってことがね」



ミクは恥じらいに頬を染めて俯いてしまう。



「私・・・不安なんです」

ミクがそっと胸裏を吐露する。

「いま私が感じているこの情動について大家さん、

 ・・・あ、大家さんというのは私が住んでるアパートの大家さんのことなんですけど、

 その方にも相談したんですけど・・・」



「そうしたら、大家さんは何て仰ってたの?」



「・・・その情動はそのまま受け入れなさい、と。

 胸の締め付けも、星登さんと共にいられる喜びも、それらをそのまま受け入れなさい、と・・・・・・」



「・・・そうね、私も同じ意見だわ」



「それでも、私はまだ不安なんです。

 何て言うか・・・、私にプログラムされて知覚できる情動は、

 本来私にとって馴染みある気持ちであるはずなんです。

 簡単に言うと、『嬉しい』とか『楽しい』とか、そういった気持ちを抱くことには抵抗がありません。

 だけど、私の星登さんに対する情動は、本当にプログラムされたものなのか、私の異常ではないのか、

 そういった不安がいつも付き纏っているというか・・・」



「うん、ミクちゃんの言いたい事は何となくわかったわ」

コトミが穏やかに言葉を紡ぐ。

「多分いまミクちゃんが感じている不安というのは、今感じている気持ちが、

 それまでの自分にとって全く未知の情動だから、という側面が強いんじゃないかしら?

 そうね、そういう意味で言うなら、

 『不安』というよりも『困惑』とか『戸惑い』という気持ちの方が

 強いのかなって気がするんだけど。違う?」



ミクは己の胸裏について見つめ直しみる。



「確かに・・・言われてみれば、そうかもしれません」



「それなら、ミクちゃんが不安に思う事なんて何もないわ。

 それは全然異常なことではないんだから。

 大家さんの言う通り、その気持ちを正面から受け入れていけば良いと思う」



「そう・・・でしょうか?」



ミクの声音には一歩の踏ん切りをつけることができない、頼りなげな空気を滲ませている。



「ええ、少なくとも私はそう思う。

 だって、私もミクちゃんと同じ気持ちを抱いてるんだから」



「え? それって、どういう・・・・・・」



「私もね、トシヤに恋をしてるの」



そういらえを返すコトミの表情には、微かな恥じらいが浮かべられているように見えた。


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