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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第二章~懸想~

幕間 其の二[1]


クリブトン社取締役社長である伊東への進捗報告を終えた剣持が開発室に戻ってくると、

熊ヶ谷雄介は開口一番質問した。



「どうでしたか?」



熊ヶ谷の質問には主語はおろか目的語すらも抜け落ちていたが、

その分熊ヶ谷の焦りと不安と期待が縫い込まれていた。

技術者として、相手にいかようにも受け取れてしまう質問などというものは

落第点以外の何者でもなかったが、

しかしそれだけ熊ヶ谷は剣持が帰ってくるのを待ち望んでいたという事である。

剣持は苦笑しながらも、熊ヶ谷が欲しているであろう回答を与えた。



「ま、今日の感触だと、アンドロイドたちは夜も安心して眠ることができそうだよ」



それを聞いた熊ヶ谷はホッとした表情を浮かべ、

そのまま椅子の背もたれに上半身を預けてしまう。



「いやぁ、それは安心しましたよ。

もしかしたら、情動系プログラムを全面的に見直せ、とか言われるかもしれないと思ってましたから」



「二千五百個の情動パターン洗い出しを、最初からやり直しかい?

 ハハハ、そりゃ確かに気が滅入る作業だね、願い下げだ」



剣持は笑いながらノートPCを机に置き、自席に座る。



ここヒューマノイドテクノロジー開発センター中央開発室は、

グループマネージャーである剣持と、リーダーである熊ヶ谷、

そして数十人の職員から構成されている。



クリブトン社の開発事業部は剣持が所属しているヒューマノイドテクノロジー開発センターの他に、

イノベーティブテクノロジー開発センターやコミュニケーションファージ開発センター、

あるいは音効映像開発センターなどなど、複数の事業部とそれに連なる開発センターで成り立っている。

これら多数の開発事業部の中で、

剣持がグループマネージャーを務めるヒューマノイドテクノロジー開発センターは、

一際異彩を放つ存在だった。

何故なら彼の部署はアンドロイドを開発する上での全ての技術を一手に担っているからだ。

すなわち、基盤からアクチュエータなどのハードウェアから、

情動プログラムや姿勢制御プログラム、危機確率高速演算アルゴリズムの開発に至るまで、

おおよそアンドロイドに関わる技術全てを設計・開発するチームなのである。



そして剣持は開発センターのグループマネージャーであると同時に、

自らは主にプロセッサやアクチュエータとそれらのファームウェアなどハードウェア開発を担当し、

熊ヶ谷は情動プログラムや姿勢制御プログラムなどのソフトウェア開発の陣頭指揮をとっていた。



「もう再来年にはアンドロイドの第一号を発売予定だというのに、

 今更あの情動パターン分析までフェーズを戻すってのはスケジュール上無理ですよ!

 全く、社長も無茶を言うんだもんなぁ・・・」



熊ヶ谷が愚痴をこぼす。



「まぁまぁそう言いなさんな」

剣持は苦笑しつつ言葉を返す。

「伊東さんはエンジニア畑出身の人ではないからね。

 開発する製品については、どうしても『商品』としての価値を重視してしまうんだよ。

 例えそれによって、僕らエンジニアが眠れないくらい忙しい日々が続いたとしてもね」



剣持の皮肉に熊ヶ谷が吹き出す。



「そもそも、アンドロイド第一号はオフィスの秘書用途として開発しているんですよね?

 それなら、無理やり二十四時間連続稼働させる機能をつける必要なんて無いと思うんですよ。

 どこの会社だって、事務処理要員だけで二十四時間体勢をしいている企業なんて聞いた事もありません」



「そこはホラ、拡張性というやつさ。

 確かにアンドロイド第一号は秘書用途として開発しているけど、

 その後に続くアンドロイドはどこの業界に食い込ませていくかまだ決まっていないからね。

 新しく開発するアンドロイドは今のアンドロイド技術を踏襲することになるだろうし、

 それなら今の内に開発できる機能はほぼ開発しきっておきたいという想いがあるんじゃないかな」



「・・・・・・まぁ、確かにそれはあるかもしれませんね」



熊ヶ谷はおとなしく引き下がり、マグカップのコーヒーを一口すする。

そのマグカップは熊ヶ谷自前のもので、側面には可愛らしいクマのイラストが描かれている。

御年三十の男が持つには少々ギャップのある組み合わせだが、

このファンシー好きは昔からのもので、妻には常日頃から呆れられていた。


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