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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第二章~懸想~

幕間 其の二[2]


「それにしても、本当に助かりましたよ」

首をポキポキと鳴らしつつ熊ヶ谷は言葉を続ける。

「あの情動パターン分析作業は、本当に大変でしたから。

 毎日毎日会社に泊まって、休日も家に帰れなくて・・・・・・」



「ああ、確かにあれは大変だったね。思い出すだけでも寒気がしてくるよ」



「だって千人のモニターから、それぞれ二千五百個もの情動パターンを収集して、

 分類と解析を繰り返したんですから。

 あれは限界を越えてましたね。心も体も」



「しかしその大作業があったからこそ、今のフェーズがあるんだよ。

 あの仕事は君だからこそ為し得たと思ってる。

 君がいなければ、このプロジェクトは間違いなく一年は遅れていたよ」



剣持の手放しの賞嘆に、熊ヶ谷はどこかくすぐったさを感じてしまう。

剣持は部下の仕事に対して賞賛を惜しまない人物だが、

それでも尊敬する上司から贈られる賞嘆の言葉は、心が震えるような嬉しさと、

そのような言葉を受け取る資格があるのかという後ろめたさを同時にもたらすのだった。



そして熊ヶ谷は自覚していた。

剣持は『熊ヶ谷がいなければプロジェクトが一年遅れていた』と言うが、

そもそも剣持がいなければ、プロジェクトはおろか人類の科学史そのものが五年は遅れていた事を。



剣持が自律性アンドロイドに搭載するため開発した専用プロセッサは、

それまでのプロセッサ技術とは一線を画す、素晴らしいアイデアの宝庫であった。

従来のプロセッサはひとつひとつの命令コマンドを以下に素早く処理するかに重点を置いていたため、

命令を処理するためにクロック周波数を上げざるを得ず、

またそれにより生じる熱の処理が重要課題となっていた。

それに対する剣持のアイデアは、命令を素早く処理する『高速な』プロセッサが熱を生じてしまうならば、

熱を生じない程度の『遅い』プロセッサを何個も搭載して、

それらに並列計算させれば良い、というものだった。

それは擬似的に人間の脳を模倣した、ニューロンネットワーク型プロセッサ構造の実現を意味する。



しかし、実はこのような並列計算型プロセッサ構造は昔から考えられており、

ビジネスユースでは数十個程度のプロセッサを並列計算するホストコンピュータも実用化されていた。

だが従来の技術では最大で六十四個程度のチップを並列計算させるのが限界だったのに対し、

剣持が考案したプロセッサは、最大で六五五三六個ものチップを並列計算させられる点が大きな特長である。



剣持考案のプロセッサは、低コスト・高熱効率のチップを二つ搭載して一ノードとし、

複数のノード間を三次元トーラス状のネットワークで接続する。

各ノードは隣接する六個のノード間で情報をやりとりし、

低遅延・広帯域の並列計算を実現できるようにしているのだ。

しかし剣持の功績で最も優れているのは、このようなハードウェア的構造の考案ではなく、

並列処理アルゴリズムの高速化の実現である。

並列計算する際にボトルネックとなるのは、ノード間でのデータのやりとりだ。

複数のノードを搭載したプロセッサでは、

あるデータを別ノードへ送信する際にも複数のノードを経由する必要があり、

その分遅延が発生してしまう。

そこで剣持が開発したのが二分岐ツリー構造データ伝達アルゴリズムである。

このアルゴリズムは、ある一ノードと複数ノードなど、一対多通信でデータ転送する際には、

各ノードと他の一~三ノードとの相互接続によるツリー構造で伝達する。

これにより極めて大きな効率化をもたらし、発信元から末端までの遅延を、

何と最大0.六マイクロ秒にまで縮めることに成功したのである。



また剣持の功績はこれだけではなかった。

それまで浮動小数点演算などのソフトウェア処理に頼っていた計算部分をもハードウェア実装させ、

処理を高速化させることに大きく貢献させている。

従来のプロセッサでは一七○八サイクルかかっていたビッグデシマル計算を、

剣持考案のハードウェアでは、何と僅か八サイクルで処理してしまうのだ。

自律型アンドロイドでは映像入力された情報から危機確率を計算する必要があり、

また稼働中には常に姿勢制御プログラムを常駐させておかなければならないが、

それらの計算の高速処理のためには、

剣持考案のハードウェアはなくてはならないモジュールであるといえた。



天才である。



剣持が新しい論文を発表し、新たなモジュールを開発する度、

世界中が驚き、震撼し、SF愛好家を興奮させつつ、同業者を落胆させた。

今や剣持は、世界中の計算機科学者たちから、尊敬の念を込めてプロフェッサーとさえ呼ばれている。


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