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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第二章~懸想~

幕間 其の二[3]

「それにしても、さ」

剣持がふいに言葉を紡ぎ始めた。

「アンドロイドを二十四時間稼働させるだとか、情動パターンの分析だとか、

 一体僕たちは何のためにアンドロイド開発をしているんだろうねぇ?」



まるで新卒の社会人のような青臭い疑問に、熊ヶ谷は少なからず驚いてしまった。

しかし疑問を口にしたのは他ならぬ剣持である。

熊ヶ谷は当たり障りのない答えを返した。



「まぁ・・・、会社の売り上げのため、ですかね?」



「確かに、資本主義の立場で言えば、それが一番正しいわな。

 うちは株式会社だから、売り上げと利益を伸ばし続ける事は市場に対する義務であるとも言えるし。

 だけどねぇ・・・、僕は時々考えてしまうんだよ」



「・・・何をですか?」



「本当に今の開発を続けても良いのだろうか、とね。

 僕が考案したプロセッサは、そもそも人間の脳のニューロンネットワークを模した

 構造である事は君も知っていると思う。

 そして君が開発している情動プログラムも、人間の情動パターンを分類・分析して、

 それをプログラムとしてアンドロイドに搭載することを目的としている。

 ヒトの脳内にあるニューロンをどのような電気情報が駆け巡り、

 その結果どのような心理状態が表層に顕現するのか、

 そんなミクロの状態量は完全なブラックボックスだと割り切って、

 あくまで人間の感情とか情動をマクロな視点から解析し、

 アンドロイドの情動に反映させようというのが、熊ヶ谷君の開発方針だ」



「ええ、その通りです」



「僕たちが開発しているのはアンドロイドだ。

 『ヒト』を一から作っているわけじゃない。

 あくまで『人間にそっくりな』アンドロイドを作っているに過ぎないんだ。

 ・・・こんなこと、今更言うことじゃないけどね」



熊ヶ谷は頷く。

剣持が言わんとしている事は熊ヶ谷はおろか、職員全員が熟知している事項だ。

剣持の言う通り、何を今更言っているのだろうという疑問が首をもたげてくる。



「ときに熊ヶ谷君、『アキレスと亀』というパラドックスは知っているかい?」



突然話題が変わった事に意表を突かれる。



「いえ、そういう話がある、というくらいにしか聞いた事がありません」



「そうなのかい? 結構意外だな・・・って、そうか。君は情報学部出身だったな。

 確かにこういう話は、理学部でない限り聞く事は少ないかもしれない。

 まぁ簡単に説明するとだね。

 昔々、アキレスというとっても足が速いことで有名な英雄がいたんだ。

 そんなアキレスに、無謀にも亀がかけっこで勝負しようと名乗り出たんだ」



「亀って、普通の亀ですよね?」



「そう、君もよく知っているあの亀さ。

 うさぎと亀の童話にも出てくる、『足が遅い』動物の代表格の、あの亀だよ。

 ・・・で、その亀がアキレスに勝負を挑むのだけど、まともに勝負したところで勝てるわけがない。

 そこで亀はあるハンデを要求したんだ。

 『アキレスさん、あなたは私よりもずっとずっと足が速いのですから、

  ハンデとして私よりもちょっと後ろからスタートするようにしてください』とね。

 アキレスはこの要求を快く受け入れた。

 ちょっとくらい後ろからスタートしたところで、亀なんかに負ける筈がないからね」



「まぁ、常識的に考えて、その通りでしょうね」



「そう思うだろう? さていよいよスタートだ。合図と共にアキレスと亀は同時に走り始める。

 しかし二人の足の速度差は歴然だ。

 アキレスはとても足が速いから、あっという間に亀のスタート地点まで走ってしまう。

 ここまでは想像できるかい?」



「ええ、わかります」



「さて、ここからがこのパラドックスの真骨頂さ。

 しかし、アキレスが亀のスタート地点に到着するまでに、

 いくら遅いとはいえ亀だって走っているわけだから、

 そのスタート地点よりも少し前の地点に亀は辿り着いている筈だ。

 仮にこの亀の地点をA地点としよう。

 つまり、この時点ではアキレスは亀のスタート地点にいて、

 亀はそれよりもちょっと前のA地点にいる。

 続いてアキレスはA地点にあっという間に辿り着く。

 しかしこの間にも亀は進んでいるから、A地点よりも前のB地点に到着している。

 そしてアキレスはB地点に到着する、しかし亀はそれよりも前のC地点に到着している。

 ・・・このように、アキレスが亀のいた場所に追いつく頃には、

 亀は常にその前にいるわけで、アキレスが亀に追いつく事は永遠にできない、と。

 これが『アキレスと亀』というパラドックスなんだ」



「ちょ、ちょっと待ってください。それっておかしいですよね?

 だってアキレスはとっても足が速いのですから、絶対に亀よりも先にゴールする筈です。

 ・・・だけど亀よりも先にゴールするためには、まず亀に追いつく必要があって、

 ・・・だけど亀がいた場所に追いつくころには亀はそれよりも先の場所を走ってて・・・あれ? あれ?」



熊ヶ谷の期待通りの反応に、剣持は満足そうな笑みを浮かべている。


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