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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第二章~懸想~

幕間 其の二[4]


熊ヶ谷は今の話を頭の中で整理してみた。



常識的に考えれば、アキレスは亀を追い越して先にゴール出来る筈。

これは間違いない。

そしてパラドックスの話は一見すると正しいように思えるが、

しかしこれが正しいとなると、アキレスは亀に追いつく事ができないということになってしまう。

明らかに『追いつく事ができない』という話が間違っているのに、

どこが間違っているのか、どこに矛盾を孕んでいるのかわからない。



「ハハハ、どうやら頭がこんがらがっているようだね」

剣持が楽しそうに話す。

「だけどね、君のその反応は正しいものだよ。

 何せ人類がこの矛盾を完全に解決するのに、実に二千年以上もの時間を費やしたんだからね」



二千年。

その途方もない数字に、熊ヶ谷は無意識にため息を漏らしてしまった。



「このパラドックスの要点を整理すると、こういうことさ。

 まず『追いつけない』と言っている根拠は、

 『亀がいた場所に追いつくまでの時間』を無限に足し合わせているから、

 追いつけないと主張しているに過ぎない。

 だけど実際は、『亀がいた場所に追いつくまでの時間』というものは、

 徐々に、しかし限りなく短くなっていってるんだよ」



熊ヶ谷は頷く。

確かに、アキレスの方が亀よりも圧倒的に速い以上、その距離はどんどん詰まっていき、

亀がいた場所に追いつくまでの時間も限りなく短くなっていく筈だ。



「この『限りなく短くなっていく時間』を『無限に』足し合わせていったとき、

 本当にそれは無限になり得るのか? それこそがこのパラドックスの肝なんだ」



「それは当然、無限になるんじゃないんですか?」



「おや? どうしてそう思うんだい?」



「だって、どんなに小さくても、ゼロではない時間が有る限り、

 無限に足し合わせれば無限になりますよね?

 1を無限に足し合わせても、0.001を無限に足し合わせても、

 やっぱり同じ無限になると思うんですけど」



「そう。その通りだ。君の言っている事は全く正しい。昔の人も君と同じ事を考えていた。

 だからこそ、この問題を解決するのに二千年もの時間を費やしてしまったんだよ」



剣持は優秀な生徒を指導する教師のような面持ちで、実に楽しそうないらえを返す。



「それじゃあ、このパラドックスはどうやって解決したんですか?」



剣持はニヤリと笑みを返して言葉を紡ぐ。



「さっきも言ったように、アキレスが亀に追いつくまでの時間は、

 限りなく短く、どこまでも小さくなっていく。

 この『限りなく小さい』というのが肝でね。

 純粋数学上では、『限りなく小さい』のであれば、

 それはもうゼロと同じだ、と結論づけてしまったんだ」



「・・・・・・は?」



余りにも大胆でおおざっぱな結論に、熊ヶ谷は呆れてしまう。



「いくら小さくなっても、それが『ゼロではない』と仮定してしまうからこそ、

 このパラドックスが発生しているんだ。

 であれば、『限りなく小さい』イコール『ゼロである』と言い切ってしまえ、

 というのが数学の理論なんだよ。

 ゼロであれば、いくら足し合わせてもゼロにしかならないし、

 アキレスは無事に亀を追い越す事ができるだろう?」



「・・・それはつまり、『限りなく透明に近いブルー』を、

 『ブルーである』と考えてた事で矛盾が発生するなら、

 『透明である』と言い切ってしまえ、と。

 こういうことですか?」



「そう! それだよ! 君は実に優秀だな!

 ええっと、それは確か村上龍の小説だっけ? とにかく、そういうことなんだ。

 『限りなく』透明に近いならば、それはもう透明である。

 透明と区別することができないならば、例え元々の色がブルーだろうと灰色だろうと、

 もう透明なんだと言い切ってしまう。それが数学の結論なんだ」



なるほど、と思わず熊ヶ谷は呻いてみせた。

確かに透明と『区別することができない』なら、

最初から区別などせずに同一視してしまうという結論は、一見なおざりのように見えながら、

実に合理的な結論であるように思えた。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」幕間其の二[5]へ

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