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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第二章~懸想~

幕間 其の二[5]

胸の奥につかえていた澱がすっきりと取れた熊ヶ谷は、そこではたと気がついた。



「・・・ところで、どうしてアキレスの話になったんですか?」



剣持はそうだったね、と軽い呟きを漏らしてから、話を続けた。



「僕が言いたかったのは、君が言った『限りなく透明に近いブルー』と同じ事だよ。

 本当は透明と区別することなど出来ないから透明と言い切ってしまって構わない筈なのに、

 『ブルー』と言ってしまっていることから、あたかも透明ではないように考えてしまう。

 ・・・これと同じ事が、僕らが開発しているアンドロイドにも言えると思わないかい?」



剣持は先ほどとは打って変わって、物憂げな笑みを浮かべながら続ける。



「僕は人間の脳に酷似したプロセッサを開発した。

 君は人間の感情と酷似した情動プログラムを開発した。

 確かに僕らが開発したモジュールは、厳密に言えば人間のそれとは違うものだ。

 だけど、特に君の情動プログラムは、人間の心と何が違うのか、誰にも判断できない。

 少なくともマクロ的視点からは、君の情動プログラムは人間のそれと全く同じように『見えてしまう』。

 そして人間の心そのものを、誰でもない人間自身が定義しきれていない。

 従って、アンドロイドの情動プログラムと人間の心は、もはや誰にも区別することが出来ない状態なんだ。

 それなら、この両者の『ココロ』は同一視しても良い筈なんだよ。

 ・・・だけど、そんな人間の心と同一と言える情動プログラムを搭載されたアンドロイドと、

 それを取り巻く人間たちは、果たして何を考えるだろうね?」



その問いかけに熊ヶ谷は胸を貫かれた。



「彼らはきっとこう考える筈だ。『アンドロイドはどこまでも人間に近いのに、人間ではない』と。

 そして最後には、彼らアンドロイドを受け入れられる人間と、そうでない人間とに二極化されてしまう。

 人間ではないのに、どこまでも人間のような反応を示すアンドロイドに、極度の嫌悪感を示す人間。

 彼らアンドロイドをあくまで個性的な人間として接することが出来る人間。

 そして、そんな二極化した人間たちが形成する社会で生きざるを得ないアンドロイドたち」



剣持の話は続く。

いつの間にか熊ヶ谷は、剣持と目を合わせる事が出来なくなっていた。

剣持の視線から逃れるように俯いて、しかし耳だけは剣持の話に集中しながら、

胸の中に剣持の意図が沈んでいくのを実感していた。



「心ない人間は、アンドロイドに極度の嫌悪を示し、あからさまな差別行為をするかもしれない。

 心ある人間だって、彼らアンドロイドにどう接すれば良いのか戸惑うかも知れない。

 そして何よりもアンドロイドたち自身が、そのような逆境の中にあって、

 何故自分は生まれてきたのかという悩みを抱えてしまうかもしれない。

 彼らアンドロイドの心が人間のそれに近づけば近づく程、

 彼らの悩みと苦悩は深く刻み穿たれてしまう・・・」



フゥ、と疲れたようなため息をついて、剣持は続ける。



「僕はね、今まで人類が為し得なかった自律型アンドロイドを開発するというこのプロジェクトに、

 途方もないやりがいを感じている。

 鉄腕アトムやドラえもんに憧れてしまった日本人としても、そして一人の技術者としても。

 ・・・ああ、そうだ。技術者の前に『愚かな』という形容動詞を付けた方が良いだろうな。

 自分の開発している技術が、どのような影響を社会に与えるかという思考実験の結果に対して、

 完全に黙殺してしまっているのだから」



そこで剣持は言葉を切って、フフ、と自嘲的な笑みを微かに浮かべてみせた。



「・・・なぁ熊ヶ谷君。君はどう思う?

 アンドロイドのために、この開発プロジェクトは凍結するべきか。

 アンドロイドを利用する人間とその社会のために、プロジェクトは続けるべきなのか。

 ・・・それとも、僕たち技術者としての誇りと自尊心を満たすために、

 どこまでも人間に近いアンドロイドを開発すべきなのか」



熊ヶ谷は答えられない。

ただ俯いたまま、微動だにできない。

マグカップに残された琥珀色のコーヒーに視線を縫い付けたまま、どのような言葉も紡ぐ事が出来なかった。



そうしてしばしの沈黙の後。



「ハハハ、ごめんよ」

剣持が乾いた笑いと共に沈黙を破った。

「こんなこと、君に質問したところでしょうがないな。全く、意地の悪い質問をしてしまったよ。すまない」



いえ、大丈夫です、と言葉を返すのが限界だった。

そうした後も、熊ヶ谷は剣持にかける言葉を探していたが、とうとう見つからなかった。

剣持を悩ませ苦悩させる程の疑問など、凡人である自分などに解決できる筈もない、

と内心で自身に言い訳するのが精一杯だった。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」二月一日[1]へ

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