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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(二○○八年)二月一日(金)[4]

その後はとりとめもない会話が繰り返されたが、ミクは二人の会話に混ざる事を諦めていた。

時折星登がミクを気遣って話題を振ってくれる事もあったが、

それらは全て井上に遮られ、ミクの発言が許される事はなかったからだ。

ミクは使用人としての仕事を徹底することで井上をもてなすことにしたが、

それでも井上の刺々しい態度や振る舞いが収まるはずもなく、

結局彼女の言動や仕草ひとつひとつがミクの胸中をざわめかせた。



その中で唯一、井上自身がミクへ振った話がある。

それは以下のようなものだった。



「ねぇ、アナタ」



「はい、何でしょう井上さん?」



「アナタたち<初音ミク>ってさ、エッチも出来るって本当?」



「ふ、ふぇっ?」



予想だにしなかった角度からの質問に対し、驚愕の声をあげてただただ赤面させるミク。

同時に星登も強く咳き込んでしまっている。



「い、井上! お前何を言い出すんだよ!」



「あら緒方くん、もしかして知らなかったの?」

井上は妖しくも悪戯っぽい笑みを浮かべながら、言葉を続ける。

「結構有名な話よ? さすがにテレビのCMとかではそっちの機能について言及してないけど、

それでもみんな知ってることだと思ってたわ」



そこまで言うと、井上はミクに向き直った。



「でさ、どうなの? やっぱり話は本当で、エッチとかできるの?」



「・・・そ、それは・・・その・・・」



ミクは恥じらいに頬を染め、俯き、どのような言葉を選んでどのように返答すべきか、

思考をぐるぐると巡らせていた。

性交渉機能そのものの説明は、必要なときに必要なだけの説明を実施することができる。

しかしこの場には星登が傍にいる。

憧れとも想い人とも言える星登がその場にいることで、性交渉機能についての説明をするにあたり、

どうしても恥じらいの気持ちが強くなってしまっていた。



「・・・井上の言う通り、確かにその機能は備わってるよ」

星登は溜息をつきながら、言葉を繋いだ。

「ミクがうちに来る前に一通りの説明を受けたからね。

 ミクが持ってる機能については一応把握しているつもりだよ。

 モバイルフォン機能、サテライトサービス機能、オプションを追加購入することで

 色々な新機能・・・いや、ミクの場合は特技と言った方が良いのかな、それらを増やすことだって出来る」



「ふーん・・・でもさあ、それだけ聞くと確かに高性能なアンドロイドかもしれないけど」

井上が言葉を挟む。

「それってダッチワイフと何が違うって言うの?」



その言葉はミクの胸を残虐に貫いた。

それは鋭利な氷柱よりなお冷たく、錆びた斧よりなお傷口を腐らせながら、

じわり、じわりと、ミクの胸裏を無残に犯し尽くしていく。



一方の井上はクスクスとからかうように笑いながら、星登が続ける言葉を聞いていた。



「・・・あれはセックスボランティア目的で付与された機能だって聞いてる。

 確かにそういった風俗機能は世間から誤った認識をされがちだけど、

 このセックスボランティアという考え方は、介護という職務に従事する以上、

 軽視してはいけないし避けて通れない問題だと思ってる。

 こんなデリケートな問題を真正面から捉えて、企業イメージを損なうリスクを負ってでも

 ミクにその機能を付与させたクリブトン社に、僕は敬意を表するよ」



星登ははっきりと告げてみせた。

そのような星登を前にして、なおも井上は余裕のある笑みを浮かべている。



「だけど、緒方くんだって一度くらいは試してみたんでしょう?」



「そんな事するわけないだろ!」



「そんな事してません!」



星登の言葉と折り重なるように、ミクも声をあげてしまう。

自分が侮辱されるならばまだ良い。

アンドロイドである自分が蔑視の対象になるであろう事は、

起動されたときからある程度覚悟していたから。

しかし、星登が侮辱されることだけは我慢がならない。

星登は井上が言うような、性欲を発散させるためにミクを求めてきた事など一度たりとてなかった。

星登はいつでもミクを気遣い、紳士然として振る舞っていた。

そんな星登を下劣な言葉で貶めるような事は、

それが例え彼の元同級生であったとしても、高ぶる情動を鎮める事などとてもできなかった。



その気持ちは星登も同様に抱いていたらしく、

そしてその感情を感じ取った井上は即座に白旗を上げてみせた。



「ごめんなさい、ちょっとしつこかったわね。この話はこれで終わりにしましょう」



謝罪の言葉を紡ぐ井上。

しかし視線は星登にしか向けられず、つまりミクに向けられた謝罪ではないことを示していた。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」二月一日[5]へ

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