スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(二○○八年)二月一日(金)[6]

最寄り駅への道すがら。

星登は傍らを歩く井上へ話しかけた。



「・・・なぁ、井上」



「ん? どうしたのよ緒方くん。

そんなおっかない声しちゃって」



「からかうなよ。

それよりも」

声のトーンを少し落として星登は尋ねる。

「一体、どういうつもりだったんだよ?」



井上は答えず、ただ正面だけを見つめてる。



「そもそもお前が<初音ミク>を見てみたいっていうから、ウチに遊びに来たんだろう?

 それなのにお前はミクに全然興味を持とうとしないし、

 それどころかミクを差別するようなことまで言って。

 料理にも全然手を付けないし、一体何をしたかったんだ?」



言葉がどうしても詰問するような口調になってしまう。

本当はもう少し穏便に話を進めようとしていたのだが、まだ気持ちが高ぶっているようだ。

星登は興奮気味の胸中を落ち着かせるために深呼吸をする。

つんと冷えた空気が肺いっぱいに満たされて、いくらか気分が鎮められた。



「あの子が自己紹介してくれたとき」

程なくして井上が言葉を紡ぎ始めた。

「ああ、明るくて素直そうだな、きっと凄く良い子なんだろうなってね。そう思った」



言葉を紡ぐ井上の口から、柔らかそうな吐息がいくつか零れた。

それら白い吐息は冬の夜気に霧散していく。



「緒方くんちに行くまではね、もうちょっと機械っぽい子を想像してたのよ、私。

 外見はCMでいっぱい見たことあるから知ってたんだけどね。

 実際動いたり話したりしてるところはまだ見た事なかったから。

 だから話し言葉もどこか不自然で、動きも何かぎこちないものを想像してたの。

 介護用アンドロイドだから、人間の日常生活を補助する程度の動きは当然できるのだろうけど、

 それでもやっぱりどこかに不自然さが残っちゃってるのかな、てね。そう思ってた。

 ・・・だけど、本物の<初音ミク>は全然違った」



そこで一旦言葉を切った。

気分を落ち着かせようとしているのか、井上は大きく息をついてみせた。

星登は言葉を挟まず、井上が語り始めるのをただじっと待っていた。



「あの子、本物の人間みたいだった。

 あの子の身体をどの角度から観察しても、本当に人間と何が違うのか見分けられなかったくらいに。

 髪も、肌も、息づかいでさえも・・・、

 それに私がそうやって観察をしてたら、緊張してるような表情までして!

 それが何だか、私には無性に恐ろしく感じてしまったの」



身震いしてしまう己を抑え込むように、自身の肩を抱く井上。



「・・・自分でもどうして恐ろしさなんて感じてしまったのか、うまく説明できない。

 だけど、人間ではないのに人間と見分ける事も出来ない、

 それほど精巧なアンドロイドが、とにかく私は恐ろしくてたまらなかった。

 だから私は、『この子はアンドロイドなんだ』って自分に言い聞かせながら、

 なおざりな態度しか取る事が出来なかったのよ」



そこまで言うと、井上は視線を星登に向けた。



「ねぇ緒方くん。あなたは怖くないの?」



「な、・・・何がだよ?」



「あの<初音ミク>がよ!

 緒方くんはあの子をまるで一人の女の子のように接しているけど、わかってるの?

 あの子は『アンドロイド』なのよ?」



最後の単語を特に強調して言ってのけた。



「あの子の目も、口も、髪も、体も、全部作り物なのよ?

 料理だってそつなくこなした。自己紹介もしてみせた。私の態度に戸惑うようなそぶりまで見せた。

 あの子の笑顔を見ていると、まるで本物の人間と話しているような錯覚まで覚えてしまうことも認める。

 でも、わかってるの? それらは全部人間が作った『プログラム』でしかないのよ?」



星登は何も言い返せない。

ただ井上が絞り出す言葉の奔流に耳を傾け、己が身に染み入らせていく事しかできなかった。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」二月一日[7]へ

関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

缶

Author:缶
SS書いたり読書感想文書いたり仕事のあれこれを勝手気ままにダダ漏れさせる予定のようなそうでないような。

缶のTwitterアカウント

缶のpixivアカウント

オススメ!

最新記事
リンク
ブログ内検索
カテゴリー
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。