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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(二○○八年)二月一日(金)[7]

「・・・私の職場にも、緒方くんと同じように<初音ミク>を買った人がいるの。

 その人は以前から新型の家電が大好きな人で、

 <初音ミク>が個人で購入できる初めてのアンドロイドっていうことと、

 一人暮しをしてたから家事をしてくれる人が欲しかったということで、発売日に買ってきてた。

 ・・・そこまでは良かったわ。

 確かにあの人なら真っ先に買うだろうと思ってたし、

 職場のみんなも『やっぱりアイツは<初音ミク>を買ったか』って、呆れながらも受け入れてた。

 だけど・・・それから、その人が何て呼ばれ始めたか知ってる?」



「・・・な、何て呼ばれてるんだ?」



「『ミクオタク』よ。

 確かに、その人は以前から女性にモテるタイプじゃなかった。

 だけど同性の友人がいないタイプでは絶対になかったし、

 私達女性社員からも嫌われてなんていなかった。

 だけどね、<初音ミク>を買ってからというもの、

 何て言うか・・・その人は、生活が<初音ミク>中心になってしまったの。

 話題は全部<初音ミク>に関するものしか話さなくなってしまったし、

 定時になったら仕事が残っていても家に帰るようになってしまって、

 終業後の飲み会とかにも一切顔を出さなくなっちゃって・・・・・・。

 何人かの同期が忠告したみたいだけど、やっぱりそんな言葉に耳を貸さなくて、

 今ではすっかり職場で浮いちゃってるわ、その人」



井上の言葉が星登の胸をちくりちくりと刺し転がす。

果たして自分の場合はどうだろうかと、己の身に置き換えて考えてみた。

自分がミクを購入した事は職場では限られた人にしか話していないし、無闇に吹聴しているわけでもない。

仕事は毎日以前と変わらぬようにこなしているつもりだが、

職場の飲み会にはすっかり顔を出さなくなった。

しかしそれも職場で浮いてしまう要因にはなりえないだろう、

と少し楽観的に見積もってみる。



「それにさ」

井上はなおも言葉を続ける。

「・・・最近のアンドロイドの事件、緒方くんも知ってるでしょう?」



「・・・・・・」



星登は無言で肯定してみせた。

知らぬ訳がなかった。

アンドロイドを所有する者にとって、幾ばくかの不安を抱かずにいられぬ最近の世論。

新聞を読んでいれば、嫌でも目に付いてしまう。

星登はミクに無用な心配をさせないため、

なるべく新聞を職場に持ち込み、外で処分するようにしていた。



「ねぇ緒方くん。私からひとつだけ忠告させて。

 ・・・今の緒方くんは、余りにもアンドロイドにのめり込みすぎてる。

 端から見てて不安を感じる程。

 あの子は確かに良い子かもしれないけど、お願いだから思い出して。

 あの子は所詮『ロボット』でしかないのよ」



途端、星登の胸がざわめき立った。

まるで自分が抱く想いの本質を、真っ向から全否定されたかのようだった。



「悪い事は言わないわ、緒方くん。

 これ以上あの子にのめり込む前に、あの子と距離を取るか、それとも手放すか、

 とにかく何かしら考える必要があると思う。

 ・・・少なくとも、緒方くんが私の職場の人みたいに、皆から孤立してしまう前に」



井上の言葉をゆっくりと噛みしめる星登。

それらは重く、苦々しく、しかし冷静な言葉の数々だった。

現実を見つめ、事実を的確に捉え、しかしだからこそ冷徹な言葉たち。



「・・・ここまで来れば大丈夫よ。人通りもあるし、駅までの道のりも大体わかるし」



気がつくと駅前の大通りに出ていた。

確かにここまでくれば駅までは一本道だし、人の往来も多いため危険は少ないだろう。



「それじゃぁ、今夜はありがとう。それと・・・」

井上は言いにくそうに付け加える。

「アンドロイドのこと、考えておいてね。

 あの子を家族のように思ってる緒方くんにはキツイ事を言うようだけれど、

 ・・・あの子はロボットでしかないわ。

 人間でないものにのめり込むことが悪い、と言ってるんじゃないの。

 あれは『生物ですらない』と言ってるのよ。

 私もペットを飼ってた。小学生の頃は猫を。2年前からは犬を。

 ・・・私はあの子たちを家族ということに、何の抵抗も感じない。

 だけどあの<初音ミク>はロボットなのよ?

 人間が一から作り出したロボットなのよ?

 犬や猫は、知能は低くても豊かな心を持ってる。

 だけど<初音ミク>が見せるその挙動は、何もかも人間が作り出した幻なのよ?

 ・・・ねぇ緒方くん、<初音ミク>を女の子のように扱ってる緒方くんは、

 <初音ミク>に心があると感じているかもしれない。

 だけど、それは単に

 『心があるように見せるプログラム』が組み込まれているだけってこと、思い出して」



そう言い残して、井上は駅に向かって歩み去った。



星登はと言えば、その場にずっと立ち尽くしていた。

井上の背中を見送るでもなく、ただぼんやりと、彼女が残した言葉を脳裏で反芻させながら。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」二月二日[1]へ

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