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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(二○○八年)二月二日(土)[1]


翌日、ミクは井上の件でコトミに相談させてもらおうと、

以前教えて貰った彼女のモバイルフォンへ電話した。

すると彼女から、土曜日はビルに入る事が出来ないため、近くの喫茶店で落ち合おうと提案された。

ミクはそれを了承し、早速指定された店へと足を運ぶ。



入店すると、既に店内で待っていたコトミが手を挙げてミクに合図した。



「こんにちは、ミクちゃん」



「こんにちは、コトミさん。今日はすみません、突然お呼び出ししてしまって・・・」



「良いのよ、気にしないで。

 ミクちゃんからこういうお誘いがなければ、

 今日もずっとスタンバイモードのまま一日を過ごすつもりだったんだから」



秘書用途アンドロイド『MEIKO』シリーズのコトミは、

今日もスラリとしたタイトなスーツに身を包ませていた。

その姿は彼女の艶やかな容姿をきりと引き締めていたが、

しかし土曜日の昼下がりの喫茶店ではその壮麗なスーツ姿も、

多少周囲から浮いて見えてしまっていた。



ミクはホットコーヒーを注文し、コトミの向かいに腰を下ろす。

それから暫くは近況の報告など当たり障りのない話題で時間を潰していたが、

話題の隙間で僅かな沈黙が降りてきたころ。



「それで、何があったの?」



コトミから切り出してきた。

瞬間、喫茶店に入ってきた頃から快活とは言えない、

どこか悲哀を湛えさせていたミクの表情が、より一層沈痛なものへと沈んでいく。



ミクはそれでも言い辛そうにしていたものの、そろりとコトミから視線を逸らして、

言葉を選ぶようにひとつひとつ丁寧に語り始めた。



星登の元同級生から明らかな蔑視と敵意を向けられた事。

ミクの事を『道具』以上のものとして見なさない、冷徹な瞳。



アンドロイドである自分へ侮蔑の言葉と態度を向けられるであろう事は、

起動したばかりの頃から覚悟してはいた。

しかしそんな覚悟も、実際にその身で体感し文字通り身を以て蔑まれる事の痛みを知ってしまった今、

戸惑いと困惑は痛烈なまでの苦みを伴って、ミクの胸裏をごうごうと荒らしていたのだ。



「そう・・・・・・、それは辛かったわね・・・」



ミクの話を一通り聞き終えたコトミが、憐憫の情を滲ませた態度で言葉をかけた。



「私・・・わからないんです」

ミクの述懐は続く。

「私がこれまでお世話になった方々は、とても私に良くしてくださいました。

 星登さんは勿論、大家さんも、近所の子供たちも、商店街の人たちも、

 本当に皆さんが差別無く接してくださってたんです。

 だから、と言うのは甘えなのかもしれませんけど、

 ・・・・・・昨夜の井上さんのような方は初めて接するタイプで、どうして私に辛くあたるのか、

 そもそも井上さんのようなタイプの皆さんは

 私たちアンドロイドのことをどのように思ってらっしゃるのか、

 私の中で整理することができなくなってしまっているんです・・・・・・」



ミクがそこまで言うとコトミはコーヒーを一口啜り、

紡ぎだす言葉を整理するかのように一息ついてから、落ち着いた物腰で言葉を発した。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」二月二日[2]へ

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