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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(二○○八年)二月二日(土)[2]


「ねぇミクちゃん、最近新聞とかでもよく取りざたされているのだけど、

 …アンドロイドに関する世論がどんなものか、あなたは知ってる?」



思いもよらぬ角度からの質問に、ミクは少々意表を突かれる。



「いえ、新聞は星登さんが会社へ持って行って、

 そのまま処分してしまわれるので、余り読んでいないのですけど・・・」



「そう・・・それじゃあ最近の世情については余り詳しくないのね?

 なら出来るだけ簡単に説明するけど、・・・私たちアンドロイドは、私のようなMEIKOシリーズと、

 トシヤのKAITOシリーズ、そしてミクちゃんの<初音ミク>シリーズで

 合計四万体が全国に出荷されているの。

 MEIKOは中小企業を始め様々な会社の事務室へ、

 KAITOは工事現場や港、空港、大企業の専属警備員として、

 そして<初音ミク>は病院や個人介護用として様々な家庭で利用されてる。

 専門の業務知識をあらかじめプレインストールされた状態で出荷される私達は、

 様々な現場で、低コスト化と業務効率化を合わせて実現できる戦力として

 期待されながら迎え入れられてる。

 ここまではミクちゃんも知ってることよね?」



ミクは頷く。

いまコトミが話した内容は、社会におけるアンドロイドの立場がどのようなものなのか、

最も基礎的な事項としてミクにもプレインストールされている情報だ。



「そしてMEIKOシリーズが出荷され、KAITOシリーズが出荷され、

 半年前に<初音ミク>シリーズが出荷され始めてから、少しずつ社会に歪みが生じ始めてきたわ。

 それがワーキングプアと失業者の増大なの」



「・・・ワーキングプア、ですか?」



「そう。いくら働いても全然賃金が増えず、

 毎日働けどその日の生活費にすら事欠くような生活を

 余儀なくされている人たちの事を、そう呼んでいるの。

 そんなワーキングプアと呼ばれている人々が、私達アンドロイドが出荷されたことで、

 少しずつ増大してきてしまっているのよ」



「ええ? そ、それって、どういう・・・」



「私達クリブトン社製アンドロイドは、大企業に購入されることも少なくないけど、

 売り上げの八割を占める契約形態が、実はリース契約によるものなの。

 MEIKOシリーズと<初音ミク>シリーズはクリブトン社百%出資子会社の

 クリブトン・ファイナンシング・ジャパン社(CFJ社)がリース契約を一手に扱ってるし、

 KAITOシリーズはクリブトンと業務提携した警備会社のALKOSが

 販売とリースを同時に扱っているわ。

 この企業努力の甲斐あって、非常に少ないコスト負担で、

 大企業のみならず中小企業も『アンドロイド』というベテランの従業員を

 雇用することができるようになってしまったの。

 そうなれば当然、会社としては

 『安く使えて、仕事もこなして、文句一つ零さず働き続ける従業員』を

 優遇し始めるし、そのせいで煽りを食って給料を下げられてしまった従業員だって出始める。

 中にはアンドロイドに代わって解雇されてしまった人もいるかもしれない。

 それが、失業者とワーキングプアの増大に繋がってしまったのよ」



「・・・そんな・・・・・・」



ミクは少なからない衝撃で、言葉とも言えぬ呻きを零すだけで精一杯だった。

人間の生活をより豊かにするために開発されたアンドロイドが、

逆に人間たちから職場を奪ってしまうとは何という皮肉だ。



「勿論、全ての人々が、私達の存在を疎んでいるわけではないわ。

 アンドロイドを導入することで人的コストの効率化を実現した結果、

 利益に直接結びついている企業があることは事実だし、

 そもそも私達アンドロイドでは代わる事の出来ない職種の人々

 ──医者や弁護士、営業職やエンジニア、あるいは管理職や自営業のひとたち──からは、

 歓迎を伴って受け入れられている。

 だけどその一方で、私達アンドロイドが職場進出することを望まない人々がいることも事実。

 そういった人々の一部が、私達のせいで職を奪われてしまった人々なのよ。

 そして彼らは、間違いなく私達の存在そのものを『悪』として捉えているわ」



コトミから突きつけられた事実は、重石となってミクの胸に深く深く沈み込んでいく。

他人のせいで自分の人生を狂わされてしまったとしたら、

それは確かに憎むに値する理由であるように思えた。

もし井上がアンドロイドによって何かしらの被害を被っていたならば、

その怨恨がアンドロイド全体に対する憎悪として心に巣くい、

痛切な敵意としてミクに向けられたとしても、理解できるような気がした。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」二月二日[3]へ

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