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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(二○○八年)二月二日(土)[3]



「だけど・・・」

コトミはなおも言葉を紡ぐ。

「ミクちゃんが話してくれた井上さんのような人は、きっとそれとは違うタイプだと思う」



コトミの物憂げな表情は晴れることなく、再度ミクへ質問を投げた。



「ねえミクちゃん。私たちアンドロイドは、人々にとってどんなものかしら?」



「え、どんなもの、ですか?」



ミクはコトミがどのような回答を欲しているのか察しようとするが、

見当がつかなかったため思いの儘を告げた。



「人々の生活にとって有益をもたらすもの、ですかね?」



「そうね。それは間違いではないわ。

 だけどそれはあくまで『Objective』や『Role』であって、

 私が質問した『What』に対する回答にはなっていない。

 私が聞きたかったのは、アンドロイドとは何なのか、

 どのような意義をもつ存在として許されているのか、・・・そうね、

 『Identity』についての質問と言い換えても良いかもしれない」



『Identity』、すなわち『存在意義』。

アンドロイドが人間に開発されたのであれば、そこには必ず何かしらの存在意義がある。

目的や役割とは離れたところにある、最も根源的な、

しかしアンドロイドという存在そのものを端的に表現できる、たったひとつの単語。



ミクも薄々気づき始めていた。

コトミが何を言わんとしているのか。

どのような言葉をミクに言わせようとしているのか。

しかしそれは、星登に想いを寄せるミクにとって、痛烈であり哀切とも言える現実そのものだった。



「私達は、」

やがて言葉を絞り出すコトミ。

「私達は人々にとって、『Tool』でしかない。

 それは紛れもない事実であり、否定しようのない現実なの・・・」



そう、アンドロイドとは突き詰めれば、

結局人間にとって『Tool』すなわち『道具』でしかありえない。

どれだけ沢山の業務をこなそうと、どれほど子供たちから慕われようとも、

人間からすれば『便利な道具』以上の価値はあり得ないのだ。



「アンドロイドが職場進出することを望まない人々が存在することは、さっきも言ったわよね?

 そういう人々の中で大多数を占めるのが、私達アンドロイドを

 『仲間と認めない』『仲間として受け入れられない』、

 あるいは『道具としての存在しか許さない』人々なの。

 同じ職場で働く仲間としてアンドロイドを信用できない、

 大切なお客様の情報を、得体の知れないアンドロイドなんかに任せられない、

 そもそもアンドロイドという存在を、頭から受け入れる事が出来ない。

 そういった人たちは、私達アンドロイドを

 『道具でしかない筈なのに、人並みに話して受け答え出来る』ことが何よりも気持ち悪いのね。

 もうそれは理屈ではなくて、心の部分で拒絶してしまっていると言えるわ。

 ・・・きっとミクちゃんに辛くあたっていた井上さんも、そんな人達と同じタイプだと思う・・・」



コトミは語らっている間ずっと視線を伏していた。

ミクに表情を向けることなく、コーヒーの琥珀色に視線を固めたまま、淡々と語り続けていた。

彼女の言葉は悲壮とも言えるほどの沈痛な響きに溢れている。

胸の痛みに耐えながら、一字一句絞り出すように語りかけるコトミの姿。

しかし辛苦に塗れた彼女の表情に最後まで湛えられた柔らかな微笑みは、

彼女の強さの顕現であり、彼女のプライドの具現であるように思えた。



ミクはコトミの言葉と彼女の強さに新たな敬愛の念を抱きながら、ふとひとつの疑問に思い当たる。



「・・・あの、コトミさんはどうして、そんなに皆さんのお気持ちが分かるんですか?

 ・・・その、私達アンドロイドに、余り良い印象を持っていない方々のお気持ちを、

 よく代弁していらっしゃるなって、ちょっと不思議に思ってしまって・・・」



ミクは抱いた疑問を率直に告げてみせた。

別に深い考慮があって投げた質問ではない。

自分もコトミのように人々の気持ちを多少なりとも汲めるような聡明さを持ち合わせたいという、

コトミへ抱く敬意の想いがさせた質問であった。



その疑問にコトミは答えをためらうような素振りを見せた。

そしてどのような言葉で伝えるべきか逡巡を繰り返し、

それら一瞬一瞬の躊躇が積み重なって、ようやくミクは、

コトミにとって非常に答えづらい質問をしてしまったのだと気がついた。


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