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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(二○○八年)二月二日(土)[4]



「あの、・・・ごめんなさい。

 もし難しいようでしたら、無理にお答えなさらなくても結構ですので・・・」



「ううん、いいの。これは私だけの問題ではないものね」



それまで回答にためらいを見せ続けていたコトミは、

冷め始めたコーヒーを一口だけ含むと、ようやく言葉を紡ぎ始めた。



「さっき私が話した内容はね、・・・私と同じ職場の人たちが陰で話している内容を、そのまま伝えただけなのよ」



彼女から返されたいらえは、ミクにとって痛みを伴う程の動揺をもたらした。



「ほら、以前ミクちゃんが職場に遊びに来てくれたことがあったじゃない?

 ・・・・・・あのとき、フロアに誰もいないこと、気にならなかった?」



ミクは思い出す。

コトミに初めて会ったときには、確かにフロアには人の気配が全く無く、

コトミが一人で業務を続けていた。



「でも、あのときコトミさんは、他の従業員の方々は本社に行かれているから、

 誰もいないんだと仰ってましたよね・・・?」



「・・・ええ、確かに言ったわ。でも・・・これはごめんなさい、と謝った方が良いのかな・・・。

 あれは嘘ではないのだけれど、社員さんは私に残りの業務を任せて、

 自分たちはそのまま本社へ行ってしまったのよ」



そこまで聞いて、ミクの心に平穏ならざる情動が溢れた。

自分の仕事を全て他人に押しつけて、自分だけサッサと職場を後にしてしまうという、その行為。

自分勝手で、自己中心的で、他人を顧みない浅はかな心構え。

きっとそんな彼らのことだから、本社に行くというのも嘘で、そのまま帰宅してしまったに違いない。



「みんな、私の事を疎んでいるのよ」

コトミは痛烈なまでの悲哀を言葉に乗せ、

しかし表情には穏やかな微笑みを湛えながら、言葉を続けた。

「お茶を入れるために給湯室へ行ったりするとね、聞こえてくるのよ。私の陰口が。

 あそこがみんなにとって内緒話をするスポットになっているんでしょうね。

 色々な話が聞こえてくるのだけど、その大半は私に対する不満なの」



コトミはなおも微笑みを絶やさない。



「ロボットとなんか一緒に働けない、あいつらのせいで給料が下がった、

 ロボットは人間の為に作られたのに、どうして自分たちが煽りを受けなければいけないのか・・・。

 そんなあけすけな言葉と態度がね、いやでも耳に入ってきてしまうのよ」



そこまで言い切ってから、もう一度コーヒーを口に含める。



「これは私に限った話じゃないわ。

 実を言うとね、・・・これは私が話したってこと内緒にしてほしいのだけど・・・、

 トシヤも、やっぱり疎まれたりしてるのよ」



「トシヤさんも、ですか?」



ミクの驚愕を乗せたいらえに対し、ただ首肯で返すコトミ。



「ほら、トシヤの業務って内容が内容だけに、人から恨みを買う事が多くなってしまうのよ。

 勿論、それは彼が悪いわけでは決してない。

 でもね、例えば、深夜のコンビニに集まってる少年たちを注意して

 、心ない言葉で罵られてしまうなんて日常茶飯事なのよ。

 ・・・彼らはきっと、ううん、彼らに限らず人間はみんな、

 自分より明らかに『下位』の存在であるアンドロイドから正論で意見されてしまうのが、

 嫌でたまらないんでしょうね。

 だから、ね・・・、最近、トシヤはちょっと深夜の巡回が苦手みたい。

 そうやってトシヤの想いが一方的に空回りしてしまう度、

 彼は凄く辛そうな表情でここに帰ってくるから・・・」



そう語るコトミの声音は、やはり暗澹とした悲愁に浸っている。



「それに、この前CDショップで万引きした中学生を指導したことがあったのだけど、

 その男の子からも恨みがましい声音で、

 『ロボットのくせに・・・』って、そう言われてしまったそうなのよ」



コトミの表情は辛苦の色に浸りつつも、しかし毅然とした微笑みは絶やさぬまま、言葉を続けた。



「トシヤ、凄くショックを受けてたわ。

 彼はこれまで子供たちのことを第一に考えて働いてきた。

 そのときも、お店の人に捕まってしまえばご家族や学校に知らされてしまうから、

 トシヤは個人的に男の子を指導しようとしてた。

 だからこっそりと彼を捕まえて、密やかに事を済ませようとしていたのに、

 その少年から出た言葉は、呪詛にも似た怨嗟の言葉でしかなかったのよ・・・」



悲痛の色を言葉に乗せて、コトミの独白はなおも続く。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」二月二日[5]へ

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