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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(二○○八年)二月二日(土)[5]



「あのときのトシヤ、本当に見てられなかった。

 自分の仕事も、自分の情動も、子供たちや街の人々に対する誓いにも似た想念も、

 全てを否定されたかのような出来事だったから・・・。

 あれほど沈んで、悲嘆にくれるトシヤは初めてだったわ・・・。

 だけど、ね」



そこまで言うとコトミはひとつ大きな溜息をつき、両手を強く握りしめ、

己への慚愧(ざんき)に身を震わせるようにしながら、ひとつひとつ言葉を絞り出した。



「だけど、私が悲しいのは、そんなトシヤに何の言葉もかけることが出来なかった事なの。

 彼があれほど落ち込んで、あれほど深く強い悲しみに囚われていたのに、

 私はどんな言葉もかける事が出来なかった。

 傷ついた彼を救う事も癒す事も出来ないまま、

 ただ口を噤んで、黙って彼の傍に佇む事しか出来なかった。

 ・・・それが、ね。彼の気持ちを考えるととても悲しくて、

 彼の胸裏を如何ほども軽くできなかった私の愚鈍さが、

 何よりも、本当に、悔しくて堪らないの・・・」



コトミの紡ぐ声音は痛嘆の色に染め上げられ、彼女の哀切はミクの身をも痛烈に貫き苛んでみせた。

トシヤの悲哀と、コトミの悔恨。

二人の想いは鮮烈にミクの胸に染み入ってきて、ただ純然たる悲愴感だけが澱となり沈んでいた。



「私達は、」

ミクがようやく口を開いた。

「私達アンドロイドは、人々に受け入れられる事は出来ないのでしょうか?

 ・・・勿論、全ての人が私達を心ない言葉と態度で差別し、隔離しようとするわけではないですけど・・・・・・

 でも、理不尽な理由で、私達が『アンドロイドである』というただそれだけで、

 忌み嫌われ、差別と蔑視を受けてしまうなんて・・・余りにも悲しいです・・・」



「・・・それは、」



「あら古賀さん、空いてるテーブルは見つかった?」



言葉を続けようとしたところで、店内に入ってきた二人連れの年配の女性の声に、

コトミの言葉はかき消されてしまった。

コトミは何となく話すタイミングを逸し、そのまま口を噤んでしまう。



当の女性達はと言えば、席が埋められた店内をぐるりと一瞥すると、

何か言いたげにミク達が座るテーブルまで歩いてきた。

ミクは何事かと思ったものの、そのまま視線を伏して彼女らをやり過ごそうとする。

しかしミクの思惑に反し、年配の女性は聞こえよがしに話を始めた。



「全く、こんなに混んでるのにいつまで座ってるつもりなのかしらね?」



過剰に振りかけられた香水の匂いが、ミクの鼻孔を鋭く突いてくる。



「本当よねえ、人が立ちんぼして席が空くのを待ってるのに、ロボットが座りっぱなしだなんて。

 非常識にも程があるわよ」



そこまで言われれば、女性達が何を言わんとしているのかミクにも理解できた。



ミクがオーダーしたコーヒーは、まだカップに半分ほど残っている。

ミクは自分がどうすべきかわからず、ただおろおろとコトミへ困惑の視線を送る事しか出来なかった。



「・・・出ましょうか?」



コトミはひとつ小さな溜息をついて、席を立った。

ミクも後を追うように立ち上がる。

そして女性の脇を通り過ぎる瞬間、あたかも当然の成り行きを見守るような面持ちで、

勝ち誇った表情を浮かべる女性達の態度が、ミクの脳裏に強烈な印象となって焼き付けられた。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」二月二日[6]へ

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