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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(二○○八年)二月二日(土)[6]



店を出ると、肌を刺すような寒気がミクの頬を容赦なく襲った。

赤みがかった西の空には鮮やかな陰影を刻んだ雲が細かい綿のように点々と浮かび、

白と紅のコントラストを背景にして、鳥たちが黒い影を残しながら素早く横切っていく。

地上を流れる風は残寒の厳しさをその身に宿らせたまま、

どこかうら寂しい空気をミクとコトミの元へ運び込んできていた。



だから、と言うのは言い訳になるのだろうか。

ミクとコトミの間に、痛切な沈黙が降り立っている。

二人は追い立てられるように店を出てから、

どんな言葉も口にする事が出来ぬまま、朱に染まり始めた間道を歩いていた。



間道とはいえ、夕方ともなれば多少の賑わいに彩られるのはこの地域でも同様である。

通り過ぎていく自動車のエンジン音、

休日出勤から帰路につくサラリーマンの靴音、

週末を楽しもうとする若いカップルの軽やかな笑い声。

しかしコトミとミクの間にたゆたう沈黙は、

喜色を仄かに含んだ賑わいと反目するかのように、陰鬱とした重さを伴いながら、

言葉を構成する種々の音素を奪い去っていた。



「あの・・・コトミさん」



ミクの言葉が二人の沈黙を破った。



「・・・これは、仕方のないことなのでしょうか?」



ミクの疑問は具体性を欠きすぎている。

しかし彼女が何を言わんとしているのか、コトミは悲しくなるほど理解していた。

だからコトミは喫茶店で答え損ねたいらえを、今ここで彼女に告げようとしている。



「・・・そうね、仕方ないことだと割り切るには、余りにも悲しい現実だとは思う。

だけど、」



そこでコトミは一旦言葉を切った。



「少なくともこの偏見と差別が無くなることは、あり得ないと思っているの。

私達がアンドロイドである限り、アンドロイドの上位存在として人間がいる限り、ね・・・」



「そんな・・・」



ミクは失望の底へと身を浸しながら、微かな光明を掴まんとコトミへ疑問をぶつけた。



「だけど・・・、だけど、私達は確かにアンドロイドですけど、

 でも、この胸の情動は確かに、人間の皆さんと同じ物だと確信してます!

 大家さんへの信頼も、商店街の皆さんへの親睦も、子供たちに抱く親愛も、

 そして何よりも、星登さんへの愛しさも!

 居ても立っても居られないほどの、痛い程の愛しさも、私は、今なら本物なんだって信じられます!

 だって、だって星登さんを想うだけで、こんなに胸が痛くなるのに!

 それなのに、こんなに切ない気持ちを抱いていても、

 私達は人間の皆さんから差別されなければいけないんですか?

 この気持ちは本物なのに! この心は本物なのに! どうして、」



「心って、何?」



ぴしゃりと言い放つ。



有無を言わさぬその一言は、無慈悲とも言える冷徹さを孕みながら、ミクの訴えを強引に退かせた。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」二月二日[7]へ

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