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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(二○○八年)二月二日(土)[7]


「ミクちゃんの言う心って、具体的にどんなものなの?

 私達には確かに『情動プログラム』と呼ばれるアプリケーションが組み込まれているけど、

 人間と同じ『心』と呼ばれるものについては搭載されていない筈よ?

 情動プログラムは人間の『心』を模倣しているけれど、しかし同一ではありえない。

 だって、人間自身が『心』の在り方について定義しきれていないんですもの」



コトミの痛烈な指摘は、一切の容赦なくミクに襲いかかった。



「・・・結局、私達アンドロイドを受け入れられない人たちの思いはたった一つなのよ。

 『心を持たない道具はペット以下』、ただそれだけ。

 アンドロイドには心が無いから、同情する必要もない。

 アンドロイドは心を持たないから、仲間として受け入れる必要もない。

 こんなに単純な理由で、私達は人々から爪弾きにされてるのよ」



これほど残酷な言葉を紡いで尚、コトミの表情には微笑みが湛えられている。

その微笑みは諦観が生んだ悲しい笑みであるように感じられた。



「・・・でも、でも・・・・・・」



それでもミクは諦めきれず、己の胸裏で確かに花開いている温かな恋着を見つめながら、

『想い』について、『心』について、何かしらの答えを探し出そうと、必死に思考を巡らせていた。



「・・・ごめんなさい、ミクちゃん」



言いながら、コトミはミクの頭をそっと胸に抱き寄せた。



「ごめんなさい、私は何も、あなたの恋を否定するためにこんなことを言ったつもりじゃないの。

 ただ、ただね? 私はミクちゃんに理解してほしかっただけなのよ。

 私達アンドロイドを受け入れられない人が、この世の中には確かに存在することを」



ミクを抱く腕に力を込めて、コトミは尚も言葉を絞り出す。



「ミクちゃんの恋が本物だってこと、私だって信じてるわ。

 当然じゃない! ミクちゃんみたいに良い子が、

 こんなに悩んで、胸を痛ませて、想いを重ねているんだもの、

 これほど強い恋が偽物だなんて、信じられるわけがないわ!」



ミクは肩の力を抜いて、己の身をコトミに委ねた。

そうしただけで、コトミの醸し出す豊かな薫りがミクを包み、緩やかな安心感にふわりとくるまれた。



「・・・だけど、そんなミクちゃんの恋を信じられない人が、世の中には少なからず存在する。

 そしてそういった人たちが、ミクちゃんや私達を蔑ろにするの。

 私は、それを言いたかっただけなのよ。

 ・・・ごめんね、ミクちゃん。ごめんね・・・」



「・・・私、」

コトミの胸の中で、ミクは弱々しくも言葉を紡ぎ始めた。

「・・・本当は、恋をしてはいけなかったのでしょうか?」



コトミの腕がピクリと震えた。



「・・・分不相応な恋だと自覚してます。

 適うはずのない恋だとも理解してます。

 ・・・だけど、それでも、この恋を捨てるには、余りにも想いが強すぎるんです。

 星登さんとの思い出を捨てることを考えるだけで、

 私は言いようのない不安と恐怖に襲われて、悲しくて、辛くて、堪らなくなってしまうんです・・・・・・」



ミクは喉の奥にひきつれたような痛みを感じながら、必死で言葉を紡いでいく。



「・・・・・・だから、ごめんなさい」

消え入るような声で、そっと呟く。

「・・・私、星登さんへの想いを、この恋を、・・・・・・抱き続けても良いですか?」



「当たり前じゃない! お願いだから、そんな悲しい事を言わないでよ、ミクちゃん!」



叫ぶ言葉の強さそのままに、ミクを抱く腕にも力が込められた。

ミクはその力を身体で受け止め、

コトミの想いを素直に享受しようと、彼女へ全てを委ねきっていた。



ミクを抱擁するコトミ。



二人の影は濃い黒となってアスファルトに落ち、ひとつに重なり合っている。

やがてその黒も周囲の闇に溶け込んで見えなくなろうとしても、尚二人の抱擁は続いていた。



コトミはその腕でミクの不安と悲哀を取り除こうとして。



しかしミクの胸中では、自分の恋について、自分の情動について、

そして何よりも自分の『心』について、

それらあまねく想いの在り方に思考を巡らせ、

暗影のように漠然とした疑問と危惧に不安感を募らせていた。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」二月五日[1]へ

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