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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(二○○八年)二月五日(火)[3]

・・・僕は、どうすれば良いんだ?



最も漠然とした、しかし最も回答を欲する疑問を最後に、星登は思考を停止させた。



何故なら、もう自宅のアパートに辿り着いてしまったからだ。

己の疑問に何の回答も導けぬまま、星登は覚悟を決めてドアを開ける。

中から温かな空気が漏れ出て、星登の頬と耳を優しく撫ぜた。



「おかえりなさい、星登さん」



玄関へ迎えに出てくるミク。

少女の表情は慈愛の微笑みを湛えている。

常ならば、ミクが見せてくれる愛くるしい笑顔と振る舞いに、

一日の疲れを忘れる程の柔らかい安らぎと、ミクと共にいられることへ桜色の興奮を感じていた。



しかし、今はもう違う。



星登は安らぎを感じられない。

心地よい興奮を楽しむこともできない。



一度抱いてしまった疑念がゆらゆらと胸裏で燻り続ける限り、

以前のような幸福を享受する事は出来なくなってしまっていた。



「・・・あの、どうかなさいましたか?」



いつまでも反応を示さない星登を見て、ミクが不安そうな表情を湛える。

星登の不調を心配するような面持ちで、愁いを双眸にたゆたわせながら。



星登はそんなミクの顔を正視できず、何とかその場だけでも誤魔化そうとする。



「い、いや、大丈夫だよ。何でもないんだ」



「そうですか? でも、何だかとても難しい顔をしてらっしゃいます。

 ・・・もしかして熱でもあるんじゃないですか?」



そう言いながら、ミクは星登の額に手を伸ばした。

それはきっと、星登の体調を純粋に慮ったが故に出た行動だった。



だから差し出されたミクの手を星登が振り払ったとき。



ミクはまず驚きの表情を浮かべて、何が起きたのか理解するのに数瞬を要し、

そして現状を把握したときにはとても傷ついた表情を浮かべていた。



「あ、ご、ごめん」



咄嗟に謝る星登。

しかし、星登がミクの手を払った事実は決して消えない。



「その、確かに体調が優れないみたいだ。

 ・・・今夜はご飯はいらないから、早めに休ませてもらうよ」



「そ、そうですか? ・・・あの、もし食欲がないのでしたら、

 せめておかゆだけでもお口にしませんか? すぐにご用意しますので・・・」



「いや、いいよ。今夜はこのまま休ませてもらうから」



それだけ言うと、星登はてきぱきと着替えて、そのまま布団に身を沈めてしまった。



眠気の代わりにいたたまれなさだけが脳裏を包む中で、

星登は少し冷たくしすぎただろうかと、胸の奥をシクシクと痛めつけられるのを感じた。

いくら己の迷いを整理しきれていないとはいえ、

それをミクにぶつけてしまうのはお門違いではないかと、自責の念にかられる。



・・・何という優柔不断さだ。



ミクのココロを信じられないと彼女を拒否する一方で、

実際にミクを拒絶してみれば己への呵責に苛まれる。

どっちつかずのいい加減な心持ちに嫌気が差すものの、

現状に対するどんな回答も出せない今の星登は、ただ布団にくるまり、

問題を先送りにする事しか出来なかった。



そういえば、と星登は思い至る。



ミクと生活を共にして以来、『おやすみ』の挨拶すら交わさなかったのは今夜が初めてだった。

その事実もまた、星登の心中を深くかき乱すのだった。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」幕間 其の三[1]へ

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