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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

幕間 其の三[5]




剣持は嘆いた。



襲撃事件が跡を絶たず、容赦ない差別の雨に晒され続けるアンドロイドたち。

彼らアンドロイドが人間社会に受け入れられない現実に、

剣持は半身をもがれるような心痛と苦悩に苛まれ続けたのだ。



やはり自分は間違っていたのだろうか。

アンドロイドたちは『人間の心』に酷似した『情動プログラム』を搭載してしまったがゆえに、

本来抱かなくとも良い懊悩を抱える結果になってしまったのだ。

もし彼らが『情動プログラム』を持ってさえいなければ、

彼らアンドロイドは蔑視の嵐に胸を痛めることもなかった。

いや、そもそも『情動プログラム』を搭載していなければ、

人間は彼らを正真正銘『道具』としか扱わず、差別など起こりようもなかった筈なのだ。



もしかすれば、アンドロイドに心など必要なかったのかもしれない。



そんな疑念にも似た悔恨を抱く程に、剣持は自身を追い詰めてしまっていた。

一時はアンドロイド開発から完全に身を引こうとまで考えた程だ。



しかし、と剣持は己を叱咤し、腹を決める。



ここで自分が逃げ出したならば、人間社会へ旅立っていったアンドロイドたちを誰が守るというのだ。

彼らは未だに痛切な蔑視に悩まされている。

そしてその痛々しい偏見から逃れる術を、彼らは持っていない。

だからこそ、自分は逃げられない。

少なくとも、今はまだ逃げて良いタイミングではない。



そんな剣持の決然とした発起が、次のアンドロイドの設計方針を固めさせた。



これまでは『人間のようなアンドロイド』を作り、

その結果、差別という暴力に晒される事となってしまった。

それなら、『心に酷似した情動プログラム』が受け入れられないならば、

『ココロ』そのものを作ってみせようではないか。

『MEIKO』が湛える微笑みよりも、『KAITO』が抱く忠誠心よりも、

更に人間的で、慈愛に溢れた『ココロ』そのものを。

その情愛に満ちた『ココロ』は、人間とアンドロイドが互いを隣人のように愛し、

友愛の情で触れ合える、そんな夢のような理想を現実のものとして未来から手繰り寄せてくれる筈。

剣持はそう信じていた。



だが、それはもしかすれば、軽率で浅慮な賭けだったのかもしれない。

『人間は人間以外の心を信じる事が出来る』という性善説に基づいた、無謀なほどの理想論。

それでも剣持は信じていた。

いや、信じたかった。

人間とアンドロイドは、きっと理解し合える。

今はまだ互いの垣根を取り払う事は出来ないが、

しかしそれを取り除くきっかけを作る事が出来る立場に、自分はいる。



そんな決意と勇断のもと、剣持は己の仕事に全力を尽くした。

次期アンドロイドの構想と設計には、剣持が持ちうる全ての力を注ぎ込んだ。

彼が持つ知識、経験、発想、学識、才能、そして思いつく限り最高の技法と、

突飛もない新案とを織り込んで、次期アンドロイドの開発は着々と進められた。

言うなれば、この次期アンドロイドには、

剣持という一人の天才の願いが確かな形態を伴って、惜しげも無く注がれたのだ。



そんな、天才技術者が持つ悲願と情熱と想念の全て。



それらは、『初音ミク』という名前に込められているのである。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」三月六日[1]へ

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