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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)三月六日(木)[2]


それでも、ミクは何とか耐えられた。

だって、ミクの手元にはマーガレットの髪飾りがあったから。

星登がミクのために選んでくれた、とても可愛らしい髪飾り。

白いマーガレットが二輪あしらわれた、世界で一番素敵なプレゼントだ。



ミクはこの髪飾りを、星登が『メルトの女の子とお揃い』だと言って選んでくれたこの髪飾りを、

今でも肌身離さず持ち続けている。

いや、むしろこれを身につけずにいることなど想像できなかった。

どんなに寂しいときでも、この髪飾りに指を這わせれば、

クリスマスの楽しい思い出を想起することができるから。

この髪飾りさえあれば、星登との絆と繋がりを意識することができるから。



今は確かに寂しくて心細いけれど、それでも星登の仕事が一段落ついて、

そしていつか彼が抱えている悩みをミクに打ち明けてくれる日が来れば、

またあの楽しく素敵な毎日が戻ってくるに違いない。



そうしたら、また一緒にカラオケへ連れて行ってもらおう。

メルトを歌って、また星登に『上手だね』って褒めて貰って、

お礼にその日の夕食は星登の好物を用意してあげるんだ。

ミク特性のビーフストロガノフ。

少し手間がかかるけど、それでも彼はとても美味しいと言って喜んで食べてくれた。

それが何よりも嬉しかった。

それはちっぽけだったけど、しかしかけがえのない幸せを、確かに感じていた。



思い出の髪飾りに指を這わせ、胸の奥が詰まるような寂寥をやり過ごしていると、

ミクに内蔵されているモバイルフォンへ電話着信が来た。

発信元は知らない番号だ。

覚えのない連絡先に戸惑いを覚えるが、

番号非表示にされてないということは変な業者からの着信ではないだろうと覚悟を決めて、

電話に出てみた。



「・・・はい、こちら<初音ミク>のモバイルフォンです」



「こんばんは。お久しぶりね」



背筋がぞくりとした。

聞き覚えのある、忘れる事など出来ようもないその声音に、身体の芯を氷が貫いたようだ。



「もしかして・・・井上さん、ですか?」



「ええ、元気そうで何よりだわ」



何ら悪びれた様子もなく答える井上。

その平然とした声色が、余計にミクの胸裏をざわめかせる。

敵意、侮蔑、偏見、それら蔑視の痛みを初めてミクに味わわせた井上。

どうしてミクのモバイルフォンの番号を知り得たのか、何のために電話してきたのか、

そういった諸々の、当然抱くであろう疑問すら投げることも出来ぬまま、

ただ呆然と井上の言葉を待つしかできないミク。

そしてとうとう、井上はミクへの後ろめたさなど

まるで感じていないかのような声調でもって、用件を告げた。



「アンタとは一度二人で話をしたいんだけど、今度の週末は空いてる?」



初音ミクSS「君の心は、そこにある」三月八日[1]へ

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