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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)三月八日(土)[2]


「ねえ」

ふいに井上が話しかけてきた。

「そこのベンチに座って話しましょうか」



井上に促されるまま腰掛けるミク。



そのベンチは五十メートル四方ほどの広場を囲うように設置されている。

二人は広場側に向かって腰掛けた。

広場にはバドミントンで遊んでいる家族と、

子犬とかけっこして戯れている子供たち以外、人影が見あたらない。

時折遊歩道をジョギングする人が通り過ぎるくらいで、

ミクたちが座るベンチ周辺に人が来る事は無さそうだった。



「ここなら、誰にも話を聞かれ無さそうよね。心置きなく話せるわ」



それにはミクも同感だった。



「あの・・・、今日はどういったご用件で・・・?」



遠慮がちに問いかけるミク。

その言葉の何が面白かったのか、井上はぷっと吹き出し、そのままゲラゲラと笑い出した。



「アンタ今さら何を言ってるの?

 まさか私が世間話をするために呼び出したとでも思ってたわけ?

 今年の夏のサンダルは何色が流行るか、とか? 冗談じゃないわよ」



挑戦的で高慢な態度を崩そうとしない井上。



「私とアンタの共通点なんて、緒方くんのことしかないじゃない。

 そうでもなければ、誰がアンタなんかと話をするってのよ」



井上は己の言葉に敵意をたっぷりと込めて、容赦なくミクを切り刻む。

それは友好のきっかけを探そうとしていたミクにとって鋭利な刃と同じ効果をもたらしていた。



「まあ回りくどいのも嫌いだし、直球で聞くけどさあ、」

敵対視としか表現できぬ視線でもって、井上はミクに問いかける。

「アンタ、ぶっちゃけ緒方くんの何なわけ?」



「何、と言われましても・・・、私は、緒方星登さんをマスターとするアンドロイド、

 ・・・という表現しかできないのですが・・・」



井上はニヤリと笑んで見せた。

それは彼女にとって満足のいく回答だったらしい。



「その通り、アンタは所詮アンドロイドなのよ。

 いわゆるロボット。わかってんじゃない。そんなロボットがさぁ・・・」

瞬間、井上が浮かべた微笑は嘲りのそれであった。

「マスターである緒方くんのことを好きになるなんて、ちょっとおこがましいんじゃないの?」



鈍器で思い切り殴られたかのような衝撃だった。

それほどその言葉は驚愕と困惑をミクに与えた。

何故、この人がミクの秘めたる懸想の情を知っているのか。

何度も会ったわけではない、

相手を積極的に観察するほど友好的でもない、

それどころか身の毛がよだつほどの敵意でもってミクを扱う井上が、

何故恋着という繊細な情を悟ってみせたのか。



「ふん、やっぱり」

井上は勝ち誇ったように告げる。

「もしかしたらと思ってカマをかけてみたんだけど、図星だったみたいね」



鼻でせせら笑いながら言葉を続ける。



「最初に会ったときから思ってたのよ。

 アンタが緒方くんへ向ける表情って、ちょっと普通と違ってたもの。

 まるで憧れる人の傍にいるような、あたかも信頼しきってますって表情でさぁ。

 正直鳥肌が立ったわ」



体の内部から滲み出る邪意を隠そうともせずに、井上は言葉を続ける。



初音ミクSS「君の心は、そこにある」三月八日[3]へ

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