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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)三月八日(土)[3]


「大体アンタさあ、アンドロイドのくせにいっぱしの恋なんてしてるようだけど、

 恥ずかしくないわけ?」



その言葉はざくりとミクを切りつける。

対するミクは多量に叩き付けられる敵意を前にすっかり萎縮してしまい、

ただ井上という嵐が通り過ぎるのを待つ事しかできなかった。



「緒方くんは人間、アンタはアンドロイド。

 生まれた国とか肌の色とかで人を差別するつもりは毛頭ないけど、

 アンタはその『人間』ですらないじゃない。

 いいえ、生物と呼ぶ事さえおこがましいわ。

 言うなれば、タンポポがライオンに恋をするようなものよね。

 まったく、滑稽にも程があるわ」



井上は己の表情に悪意をぎっしりと詰め込んで、ミクを思う存分嘲り笑う。

それまでは浴びせかけられる罵詈の荒波に耐え続けてきたミクだったが、

ようやく、おそるおそる言葉を口にした。



「・・・確かに、私は星登さんに好意を寄せています。

 そして仰る通り、星登さんは人間で、私はアンドロイドです。

 これはもう揺るぎようのない現実です。

 ですが、それでも、私は星登さんへ想いを抱いてはいけませんか?

 この想いを実らせる事は確かに出来ないかもしれませんけど、

 私は、星登さんをただ思い続けていたいんです。

 それも、おこがましい事なのでしょうか?」



「ええ、その通りよ」



バッサリと切り捨てる井上。

ミクの微かな恋情すら許さぬその無情な一言に、ミクは息を詰まらせる。



「そもそもアンタ思い違いをしてるわ。

 アンタ『想いを実らせる事は出来ないかもしれません』とか言ってるけど、

 『かもしれない』じゃなくて『できない』の。

 わかる? 恋愛を成就させるって安易に言うけどね、ことはそう簡単じゃないのよ。

 いつかは結婚して、子供を産んで、家族を養って、

 相手と生涯をともにすることまで考えなければいけない。

 ま、そうは言っても、これは凄くお堅い考え方だと思うし、

 一晩限りの恋ってのもアリだとは思うけどね。

 ていうかさ、アンタの場合、ソッチの方がお似合いなんじゃない?

 ちょうどセックスする機能だってついてるんだし」



言いながら、井上は下卑た視線をミクへ投げかけ、全身を舐めるように睨め回した。

ミクはそのおぞましい視線に鳥肌を立て、

その視線から逃れようと胸元を隠すように両腕で体を抱くものの、

背筋を走る悪寒を拭いきる事はできなかった。



「それに何よりもさ」

井上は己の言葉に一層の凄みをきかせる。

「アンタ、はっきり言って邪魔なのよ」



反論を一切許さぬ語調で井上は続ける。



「アンタはさ、緒方くんの家で起動してからまだ日が浅いからわかってないんでしょうけど、

 私はね、緒方くんのこと高校の頃からずっと見てきたのよ。

 彼の人の良さとか、誰よりも一生懸命なところとか、

 同級生として彼の事を三年間ずっと見てきた。

 高校を卒業して、私達は別々の進路を選んだけれど、

 それでも私は彼のことを見てきたし、彼の傍にいたいと願う事もやめなかった。

 ・・・言ってる意味、わかる?」

挑むようにミクを見やる井上。

「私ね、緒方くんの事好きなの。高校の頃から、ずっと」



井上の独白は止まらない。



「高校を卒業してからも、私達は何度も連絡を取り合ってた。

 それは恋人なんて良い関係では全然なくて、

 恋愛どころか友人としての付き合いしかできなかったけどね。

 何度か食事に行ったり、遊びに行ったりもしてたけど、でも、それだけの関係だったわ。

 だけどね、私はそれなりに満足だったのよ。

 いつかはお互いを恋人と呼び合える関係になることへの憧れはあったけど、

 それでも無理して現状を壊す必要もないって、そんな風に考えてた。

 だけどね、ある日を境に緒方くんは全然私の誘いに乗ってこなくなったのよ」



最後の一言には、吹き荒れる激烈な情動が強い語気となって現れていた。

井上はそこで大きな溜息をひとつ吐いて、語調を平常のそれに戻そうとしている。



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