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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)三月八日(土)[4]


「最初は体調が優れないのかとも思ってたんだけどね、

 段々連絡が取りづらくなってきて、さすがの私も焦ったわよ。

 私を出し抜いて、誰かが彼を寝取ってしまったんじゃないかって、気が気でなかったわ。

 そうして何ヶ月か過ぎて、久しぶりに彼と連絡とれたから詳しく話を聞いてみれば、何よ。

 <初音ミク>を買ったから、私と外出する機会が減ったって言うじゃない。

 まったく、忌々しいことこの上ないわ」



最後の一言には彼女の苛烈とも言える苛立ちが込められていた。



「わかってんの? 彼は人間なのよ?

 それなのに、ロボットのアンタが彼をたぶらかしたりして、

 身の程を知りなさいよね、気持ち悪い!」



「そんな、・・・私、たぶらかすなんて、そんなつもりは・・・」



「ない、なんて言わせないわよ。

 緒方くんがアンタを見る目、明らかにロボットを見る視線じゃなかった。

 彼、アンタの事を家族と同一視してたじゃない。

 帰り際に私が指摘してあげて、ようやく自分の異常性に気づいてくれたみたいだったけど、

 もしあそこで私が忠告してあげなかったら、

 今頃異常者のレッテルを貼られているところだわ」



「・・・そんな、星登さんは、とても私に良くしてくださってます。

 とても私に優しくしてくださってます。

 そんな星登さんを異常者呼ばわりするなんて・・・!」



「アンタ何言ってんのよ」

苛立ちを隠そうともせずに井上は言い放つ。

「確かに緒方くんはとても優しくて、気がつく人で、

 人の良さで言えば彼ほどの好人物はいないと思う。

 だけどね、そんな彼の優しさも、

 ロボットに向けられればそれは異常者というレッテルを貼られてしまうのよ。

 わかる? つまり、何もかも、アンタが『ロボットだから悪い』のよ」



ミクは言葉を失った。

ただ呆然と、井上の言葉を飲み込んだ。

『ロボットだから悪い』。

それは自分が喫茶店で、スーパーで、バスの中で、

あらゆる場所で受けてきた侮蔑と蔑視の根源そのものだった。

それら謂われのない差別に凍るような心痛を味わわされたミクにとって、

『ロボットを守ろうとする人たち』にも自分と同様の差別を与えられるという現実は、

すんなりと受け入れてしまう冷酷な自分と、

それでも納得しかねる感情的な自分とを共に意識させられた。



「アンタさぁ、」

そして井上は、恐るべき言葉をこともなげに言い放った。

「もういい加減に死ねば?」



ミクはぎょっとして、驚愕に身を固くさせる。



「だってさ、アンタがいなくなってくれれば、私の数年来の恋もうまくいくし、

 緒方くんが異常者呼ばわりされる心配もなくなるし、一石二鳥なんだけど。

 そうよ、それが良いわ。

 我ながらナイスアイディア! ねえ、アンタたちには自殺モードとかって付いてないの?」



目をらんらんと輝かせて『自殺できないのか』と尋ねてくる井上。

ミクはそんな彼女の姿に空恐ろしい情動を抱きつつも、

何とか冷静に対処するために自分を落ち着かせる。



「・・・そ、その、例えばシステムファイルは、

 私自身がアクセスできる階層よりも深い部分に保存されているので、

 私自身の意志では削除や編纂を行う事は出来なくなっていて・・・

 あとRAIDなどの重要なファームウェアは、

 ハードウェア構成に関する情報なのでフラッシュメモリに記録されているのですが、

 私の権限ではそのメモリへアクセスすることも出来なくなっているんです・・・。

 で、ですから、その」



「要するにさ、自殺できないって言いたいわけ?」



「は、はい・・・、そうなります・・・。もっとも、自殺の定義にもよりますが・・・」



「定義だとか定規だとかそんな面倒なのはどうでもいいのよ、

 私は自殺してほしいだけなんだからさ、もっと気を利かせた回答をしなさいよ」



苛立たしげに言い捨てる井上。



初音ミクSS「君の心は、そこにある」三月八日[5]へ

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