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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)三月八日(土)[10]


だからこそ、ミクは思う。



どうして?

素朴で、それだけに強烈な、しかしどこにもぶつけようのない不満を抱くミク。

それはただただ胸の中で膨張し、自分の想いも、自分の行動も、

何もかもが空回りしている現状と相まって、

まるで膨らみきった風船のように不安定な様相を呈していくばかりだ。



悲観、懸念、危惧。



それら寒々しい憂いの念はミクの胸奥を次々と刺し抉って、やがては何の根拠もない、

しかしミクにとってはこれ以上ないほどの由々しい事態を想像させた。



もしかして星登は、今まで誰かと一緒にいたのではあるまいか?



一度生まれた疑念は冷静な判断を挟むことなく、

次から次へと根拠のない不穏を芽吹かせていく。



そういえば井上が公園を立ち去った際、どことなく急いでいる向きがあった。



もしかして井上は、星登と会う約束をしていたからこそ急いでいたのか?



そんな論拠のおぼつかぬ懐疑は、しかしミクにおいては圧倒的な説得力でもってのしかかり、

遂にはある種の強烈な反抗心を抱かせた。



その反抗心とは、すなわち、嫉妬。



井上に星登を渡したくない、自分の想いを諦めたくない。

そういった少女特有のエゴを、ミクは胸中で着実に大きく膨らませていく。



『とにかく、私の恋路の邪魔だけは絶対にしないでよね』

『緒方くんの傍にアンタがいるだけで私の邪魔をしてるってこと、肝に銘じておきなさい』

『緒方くんを惑わすな! 金輪際私の邪魔をするな!』



井上の言葉が蘇ってくる。

ミクをロボットと断じ、人間に尽くすのが当然という態度を曲げず、

あくまで横柄な態度をとり続ける井上の言葉が。

ただアンドロイドであるというだけでミクの何もかもを全否定し、

居丈高で不遜な態度を崩そうとしない井上。

そんな井上に対し、ミクがある種の反感を抱くようになったのは、

必然と言えるものだったろうか。



ミクは強烈に思った。



井上に星登を渡したくない。



井上なんかに星登を渡したくない。



例え自分の想いが実らない結果になろうとも、あの人にだけは星登を渡したくない。



そんなミクの想念は、確かに奔騰とも言える激烈さでミクの胸中を熱く滾らせるものの、

しかしその思いを直接星登に言えるはずもなかった。



何故なら、アンドロイドは自らの願いを口にしてはならないから。



だからこそミクは己の胸中を必死で鎮まらせて、

言葉を選び、しかし毅然とした態度で告げるのだ。



「あの……星登さん」



だからそれは、井上に対する宣戦布告にも似た覚悟で発した言葉だった。



「……出来れば夕飯までに帰ってくる事は、難しいのでしょうか?」



しかし星登は、そのようには受け取らなかったようだ。









「あの……星登さん……、出来れば夕飯までに帰ってくる事は、難しいのでしょうか?」



瞬間、星登の意識が煮えたぎった。



「……何で、何で僕が君の指図を受けなければいけないんだ」



「……え?」



そのいらえは、ミクには予想外の物だったらしい。

呆然としたまま視線を星登に預けている。



「僕は、君は、一体何なんだよ!」



支離滅裂な言葉が生まれゆく。



星登はミクの『ココロ』について懐疑的になっていた。

だからこそ、彼女の仕草、表情、挙動、全てが不安と疑念の種になっていたのだ。



しかしいま、星登の不安と疑念は、

ミクの言葉によって苦悶と怒りへと瞬時に昇華してしまったのである。



「ミクが僕の行動についてとやかく言う資格があるのか!

 僕の勝手じゃないか! 僕がいつ帰ってこようと、僕が何をしようと、僕の勝手だろう!

 もう僕に構うのはやめてくれ!」



そこまでを一気にまくしたてる。

息を荒げ、視点を定まらせずに。



「……あの、星登さん……、あの、私、そんなつもりじゃ……」



震えながら、何とか言葉を紡いでいくミク。

心なしか、彼女の瞳には薄い涙の幕まで張っているように見えた。



怯えている。

震えている。



そこで星登は、ようやく冷静さを取り戻した。

自分がどんな言葉を投げたのか。

どのような態度で怒鳴りつけたのかを、やっと理解できた。



ミクは瞳に涙だけでなく困惑と戸惑いまでをも湛えながら、

両手を胸元でカタカタと振るわせている。

その手は、いつだったか星登に堪らぬ恋慕を抱かせた、小さく、可憐な、あの両手であった。

その愛くるしい指先を震わせる程に、自分はミクを惑わせ、怯えさせ、傷つけてしまった。



強烈に生まれ出でる罪悪感。

さながら炎に炙られたかのような息苦しさの中、星登は何とか一言だけ言葉を紡いだ。



「……ごめん」



それだけ告げて、星登は部屋を出て行った。

行く当てなどない。

ただこれ以上部屋の空気に触れられなかった。

それだけだ。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」三月六日[11]へ

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