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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)三月八日(土)[12]


ミクからの電話だろうかと一瞬だけ身を強ばらせるが、着信元は井上だった。

それでも出ようかどうしようか数秒逡巡したが、結局通話ボタンを押した。



「……もしもし?」



「あ、緒方くん。こんばんは。いま電話しても良かったかな?」



相変わらずの、明るい声。

高校の時から聞き慣れた、井上の声。

その色彩に富んだ声を聞くうち、自責と呵責に傷んだ星登の心が、

少しだけほぐれ癒されたような気がした。



「……ああ、大丈夫だよ。……どうしたんだ?」



一瞬だけ、間が空いてから。



「ねえ緒方くん、何かあったの? 今のあなた、ひどい声してるわ」



ギクリとする。

努めていつもの調子で声を出したつもりだったが、

井上には何かしらの異変を感じさせてしまったらしい。



「いや、何ともないよ。大丈夫」



「本当に大丈夫? 風邪引いちゃったんじゃない?」



「風邪とかじゃないから、大丈夫なんだ、本当に。……ありがとう」



ほわりと、心を温められたような気がした。

自分の身を心配してくれる人の言葉が、何よりも胸に染み入ってきた。

それはまるで……、自分が風邪で寝込んでしまったとき、

親身に看病してくれたアンドロイドの少女へ抱いた感情と、とてもよく似ていた。



「……そうなの? ……ご飯は、もう食べた?」



「ああ、食べた」



「それじゃぁ、薬は飲んだ?」



「いや、飲んでない。ていうかさ、本当に病気じゃないから大丈夫なんだよ。

 心配してくれるのは嬉しいけどさ」



「……そう? だけど緒方くん、何だかいつもと調子が違うからさ……」



ぐ、と息を呑む。



「そ、それは……」



「……何か、あったんじゃないの?」



井上の鋭い言葉に、危うく狼狽しかけた。



どうして井上は、こうも人の哀しみに敏感なのだろう。

思えば、井上という女性は昔からこういう人だった。

高校時代も、星登が己の境遇について一番最初に感情を吐露した相手は、やはり井上だった。

彼女は何か、人を無防備にさせる不思議な人徳がある。

それは昔から何となく感じていた。



いっそ、ここで弱音を吐いてしまおうか。



そんな抗いがたい魅力が猛然と襲い来る。



ミクに惹かれていたことも、

だけどいつしかミクの『ココロ』を信じられなくなってしまったことも、

自分の気持ちにどう整理をつければ良いかわからなくなってしまったことも、

ミクへ癇癪をぶつけてしまったことも、それを物凄く後悔していることも、全て。



そうやって話そうか話すまいか逡巡している内に、電話の向こうで井上が話しかけた。



「……ねぇ、今夜の緒方くんやっぱり変よ。

 今からどこかで会いましょう? 会って話した方が胸が軽くなることだってあるわ」



その誘いを断る理由はなかった。

星登はそれを断れるほど強い人間ではなかったのだ。







星登が出て行ってしまった部屋の中で、ミクはただ呆然と立ちすくむ事しか出来なかった。



星登に怒鳴られた事がショックだった。

星登に取り残された事が余りにも惨めだった。



井上に嫉妬を抱き、つい星登に意見してしまった。

いやしくもアンドロイドの分際で、マスターである星登に意見してしまったのだ。

それが、彼の逆鱗に触れてしまった。



(ああ、ああ、何てことをしてしまったのだろう!)



星登に嫌われてしまった。

生意気な口を聞くアンドロイドに愛想をつかれてしまった。

妬みの情動に突き動かされ、浅はかな行動に移った結果が、これである。

ミクはただただ後悔するしかなかった。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」三月六日[13]へ

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