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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)六月二十五日(水)[2]


傘を畳んでスーパーに入り、一通り品物を選んでかごに入れていく。

店は雨の割に客足が賑わっていて、レジの前にはそこそこの列が出来ている。

ミクは列の最後尾に並んだ。



しばらく待ってミクが自分のかごをレジの台に乗せようとしたところで。



「ねぇ、ちょっとちょっと」



突然後ろに並んでいた主婦らしき中年女性に話しかけられた。



「はい、何でしょう?」



「私急いでるからさ、ちょっと順番変わってよ」



そう言うやいなや、女性はミクを押しのけてさっさと自分のかごをレジ台に乗せてしまう。



「え、そ、その……」



ミクの力ない抗議に女性は強く言い放つ。



「これくらい良いじゃないの、それとも何? あんたアンドロイドのくせに文句でもある?」



女性の横柄な行動に呆気にとられているうち、店員がバーコードを読み取らせながら会計を始めてしまう。

店員はミクと目を合わせようとせず、彼女をかばう気は毛頭無い様子だった。

何を言うタイミングも逃してしまったミクは、諦めて女性の後ろに並び直そうとする。



しかしそれすらも後ろに並んでいる別の女性から阻まれてしまった。



「ちょっと、私が並んでたのに入ってこないでよ」



そうしてその女性もミクを後ろへ並ばせようとする。

更に後ろに並んでいる客も、皆同じ意見のようだった。



客の射るような視線に耐えかねたミクはその場を逃げるように去り、他の列に並び直そうと店内を見渡す。

そうしているうち、後ろから商品を運んでいる店員に背中をぶつけられてしまった。



「あ、ご、ごめんなさい」



咄嗟に店員に謝るミク。

しかし当の店員は、通り過ぎる際あからさまに、ちっ、と舌打ちを残していった。



ミクは何ともいたたまれなくなって、結局、かごの商品を全て棚に戻してスーパーを後にした。





何も買い物が出来ず、ただ手ぶらでスーパーを出てきたミク。

傘を手に、アスファルトへ波紋を残す雨粒を見ながら、とぼとぼと商店街を歩いていた。



(こんなこと、いつものことじゃない)



胸の中で呟く。



(だから悔しくなんてないし、寂しくもないんだから)



そう自分に言い聞かせるが、胸元に沈んでいる痛いほどの寂寞をごまかす事は出来なかった。

買い物をしなおす気力はとうに失せ、ただ何となく商店街を歩いていく。

雨脚が強くなる事はなかったが、それでも足下は水たまりではねた水のせいでいくらか汚れてしまっている。

その汚れた靴がまるで自分の惨めな現状を表しているような気がして、更に気分は滅入っていく。



そうしてミクがひとり雨の中で歩いていると。



「おおい、嬢ちゃん」



ふいに呼び止められて振り向く。

見ると魚八の主人が店から顔を出して手招きしている。



「こんにちは、魚八さん」



「おうこんにちは、嬢ちゃんはこんな雨の日にも買い物かい? 偉いねぇ」



主人のミクに対する扱いは子供の使いと同じだ。

しかし主人のその扱いはミクがこの街にやってきてからずっとこの調子なので、

ミクは苦笑しながら受け答えする。



「おや、ミクちゃんも魚八さんで買い物かい?」



そう声をかけてきたのはアパートの大家である望月文代だった。

どうやら彼女はミクより先に魚八へ買い物に来ていたようだ。

話しかけられるまで文代が来ていることに気づかなかったミクは慌てて挨拶を返す。



「あ、こ、こんにちは大家さん!」



「こんにちはミクちゃん、だけどね、そんなに慌てなくても良いよ」



文代はコロコロと笑いながらいらえを返した。



初音ミクSS「君の心は、そこにある」六月二十五日[3]へ

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