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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)六月二十五日(水)[3]

「いやあそれにしても」

魚八の主人が二人に話しかける。

「今日は二人に来てもらって良かったよ。なんたってこの天気だろう?

 客足が遠のいちゃって商売あがったりなんだ。

 客はみんなスーパーの方に取られちまって、物量で対抗できない個人商店は厳しいったらねえや」



かくいうミクも、最初にスーパーで買い物しようとしていたのだが、勿論そのことは黙っていた。



「ああ、そうだろうねぇ。実は私だって、雨の中出かけてくるのは億劫だったもの。

 年を取ると外出するのも一苦労になっちゃってさ。

 でもね、こういう日だからこそきっと安売りとかサービスとかしてくれると思ってさ、

 わざわざここまで来たんだよ。ねえミクちゃん?」



「え、え? は、はい、そうですね、ハハ……」



突然話を振られて曖昧に返事するミク。



「ええ、そうなのかい嬢ちゃん? そんな風に美女から迫られちまったら、

 俺だってサービスしないわけにいかなくなっちまったなぁ」



「ちょっと魚八さん、その『美女』ってのは、もちろん私も入ってるんだろうね?」



「え? うーん、奥さんの場合は『元』美女だな」



「何だい、失礼しちゃうねぇ」



そうして二人は陽気に笑った。

つられてミクも控えめに笑う。

それはスーパーでの出来事でささくれだったミクの胸奥が、いくらか和らげられた瞬間だった。





結局魚八では値引きしてもらったマアジを購入し、ミクと文代は揃って店を後にしようとする。

そこで主人に呼び止められた。



「ああ、嬢ちゃん」



「はい、何でしょう?」



「そのお、なんだ」

魚八の主人は鼻を指先でかきながら言葉を選んでいる様子だ。

「暗い道を歩いたり、遠くへ行ったりするときには気をつけるんだぜ?

 ほら、最近……色々と物騒だろ? だから、そのなんだ、ミクちゃん美人だから心配でよ」



物の挟まったような言い方をしているが、ミクは彼の言いたい事が理解できた。

きっと主人は最近全国で頻発しているアンドロイドの通り魔事件について言っているのだ。

警備用途アンドロイド『KAITO』を開発するきっかけとなったアンドロイド襲撃事件の発生件数が、

昨年度比で二十%も上昇しているという記事が今朝の新聞に出ていたのだ。

また通り魔事件はついに隣町でも発生し、いよいよ他人事ではなくなってきている現実がある。



では魚八の主人が何故これほど曖昧な言い方に終始しているかと言えば、

彼はアンドロイド非差別主義者であるからだ。

故にミクをアンドロイド扱いしないよう意識した結果、

どのような言葉で彼女に注意を喚起すべきか迷っていたのだ。



だがそんな主人の思慮は浅はかであると言えよう。

そもそも相手を差別するということと、相手の特徴や個性を認める事は全くの別行為である。

アンドロイドである事実から逃げて、その単語の使用を避けるといった単純な言動は、

何ら差別回避の糸口にはならない。



だがミクは、それを言及し彼を責め立てるつもりなど毛頭無かった。

何故なら彼は善良で素朴な一般人であり、あくまでミクへの気遣いのため言葉を選んでいたのだから。

きっと客の中には、魚八の主人が『アンドロイドと仲良く接している』という事実だけで彼を毛嫌いし、

店に通わなくなる者もいることだろう。

そのようなリスクを背負ってまで、主人はミクに気さくに、陽気に接してくれているのだ。

そんな彼を責め立てる事など、出来るわけがなかった。



「はい、ありがとうございます」



ミクは魚八の危惧に礼で返した。



初音ミクSS「君の心は、そこにある」六月二十五日[4]へ

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