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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)六月二十五日(水)[4]

ミクと文代の二人はそろって帰路についている。

雨脚は少しずつ弱まってきて、今では小さな雨粒をさらさらと微かに零すのみだ。

空は相変わらず灰色の分厚い雲に覆われているが、この雨がやむのは時間の問題かもしれない。



そうして二人が並んで歩いていると、ふいに文代が話しかけてきた。



「ねえミクちゃん、……どうしたんだい、最近?」



「どうしたって……、何の事ですか?」



「いやさ、最近ミクちゃん元気がないように見えたし、

 それに前までよく来てた庭にも余り来なくなっちゃったからさ。どうしたのか、ちょっと心配になってね」



確かに最近はアパートの庭で咲いている花を愛でなくなっていた。

興味が無くなったのではなく、そちらに気を回す余裕がなくなった、と言うべきか。

星登の事、井上の事が常に脳裏を占有して、それまで純粋に楽しめていた諸々の事柄を、

以前のように没頭することが出来なくなってしまったのだ。



そうしてミクがしばらく黙っていると。



「うん、まぁ……、話したくないならそれで言いさね。

 年寄りのお節介でね、どうしても気になっちゃったのさ。気を悪くしないでおくれよ」



それだけ言うと、二人の間に沈黙が訪れた。



梅雨寒に包まれた街は初夏と思えぬ肌寒さを湛えて、ミクの指を濡らし悴ませていく。

それは痛みを伴うほどの冷たさではなかったが、ミクの胸奥に潜む寂寥を更に冷やし、

文代に甘えて全てを吐き出したいと思わせる程度には、厳しい冷たさを孕んでいた。



「あの……、」



「ん? なんだい?」



「……実は、星登さんとのことなんですけど……」



「うん」



「最近、星登さんとの仲がどうしてもよそよそしくなってしまっていて、

 ……実は、そういう風に他人行儀みたいになってしまったのは私が悪いんですけど、

 その……以前、星登さんに怒鳴られてしまって……」



「怒鳴ったって、あの緒方さんが、ミクちゃんを? ……それは穏やかじゃないねえ」



「いえ、その、それは本当に私が悪くて、……その日、私が出過ぎたことを言ってしまったものだから、

 星登さんを怒らせてしまって…」



「でもあの緒方さんが怒鳴るなんて、想像できないねえ……、ミクちゃん、一体何をしちゃったんだい?」



ミクは、く、と息をひとつ飲み込んで、数ヶ月前のあの出来事を話した。



星登が外で食事をしていたこと、ミクはそうと知らずに夕食の用意をしてしまっていたこと、

そして星登がその夕食を食べる事が出来ないと言った事に対して、ミクが意見してしまったこと、

それに対して星登が咄嗟に怒鳴りつけてしまった事……。

あの日の一部始終をミクは丁寧に語ってみせた。



ミクが一通りの説明を終えると、文代はキョトンとした表情でミクを見やっている。



「……それだけで、緒方さんはミクちゃんを怒鳴りつけたってのかい?」



「え、ええ、そうです」



文代は盛大な溜息をついてミクに助言する。



「あのねミクちゃん、それならミクちゃんが気に病む事はこれっぽっちだってないよ。

 今の話だと、緒方さんが悪いもの。だってミクちゃんは夕飯を作って待ってたのに、

 緒方さんは連絡のひとつもよこさないで外で食べてきちゃったって言ってるんだろう?

 それなのにミクちゃんに当たり散らすなんて、お門違いも良いところだよ。

 それでミクちゃんは、緒方さんに対して後ろめたく感じてるのかい?」



「いえ、後ろめたいというか……、それでも、星登さんを怒らせてしまったことは事実ですし、

 それでまた私が何か余計な事を言って星登さんを不愉快にさせて、

 今度こそ嫌われてしまったらと考えると……」



「安心おしミクちゃん、あの緒方さんがミクちゃんを嫌うなんてこと、絶対にないから」



文代は朗らかな笑みを浮かべ、そう断言する。



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