スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)六月二十五日(水)[5]


「まぁ確かに、相手のことを一度好きになってしまうとさ、

 不振に思われやしないか、嫌われやしないかって色々と不安になってしまうもんだからさ。

 ミクちゃんがあれやこれや悩んじゃうのも、まぁ仕方ないと思うよ。

 でもね、何回でも言うけどさ、あの緒方さんがミクちゃんのことを嫌うなんて、

 絶対にないよ。保証してあげる」



「……そう、なんでしょうか?」



「そうさねそうさね、きっと緒方さんだって、ミクちゃんに当たり散らしちゃった事を後悔してるよ。

 まぁ緒方さんだって人間だからさ、虫の居所が悪くて、

 ついミクちゃんに当たってしまっただけなんだと思うよ。

 だからさ、ミクちゃんもそんなに塞ぎ込みなさんな」



「……は、はい…」



そう言葉を返すミクの表情は、やはり曇りがちで憂いを湛えている。



「……まだ何か悩み事を抱えてそうだね。もう全部言っておしまいよ。

 それだけで気分が晴れる事だってあるんだよ?」



文代に促され、ミクは意を決し、己の胸中に沈んでいる黒い煩いを吐き出すことにした。



「以前大家さんに相談させてもらったとき、大家さんは、

 私の不調は恋そのものだと仰ってましたよね。覚えてますか?」



「ああ、もちろん。覚えてるよ」



「それなんですけど……、実は数ヶ月前に、星登さんの、その……、同窓の方とお話する機会があって……、

 そこでその方からは、私たちアンドロイドが星登さんのような人間に恋をしても、

 それは絶対に実るはずがない、と言われてしまって……」



「まあ、確かにね。……正直、私もミクちゃんの恋は前途多難だと思うよ。その点は、同情してしまうね」



「……やっぱり大家さんも、星登さんと私、というよりも、

 人間とアンドロイドの恋は実らないと、……そう思いますか?」



「いや、私はそうは思わないよ」

文代は断言してみせた。

「ありきたりの言葉だけど、恋には色々な形があって然るべきさね。

 幼なじみ同士の恋のように万人に受け入れられるものもあれば、

 友人の恋人を好きになってしまって、トラブルの種になってしまうことだってある。

 昔は黒人と白人の恋だってタブー視されていたくらいだけど、

 今では男同士や女同士の恋だって、少しずつ受け入れられ始めてる時代だよ。

 アンドロイドと人間の恋はまだ聞いたこと無いけど、

 でもミクちゃんたちがその恋を実らせた第一号のカップルになってしまえば良いだけの話さね」



「でも、恋が実るとは、どういうことなのでしょうか?

 結婚して、子供を産んで、家族を築いて、生涯を供にして……。

 でも私は、そんな生活を星登さんと共にする資格がありません。

 結婚もできないし、子供だって産めません……。

 星登さんの『家族のような存在』にはなれるかもしれないけど、

 『家族』そのものにはどうしたってなれないんです。

 ……こんな私では、やはり、恋を実らせることができるとは、思えないんです……」



雨は霧のような細さで空から流れてくる。

傘をしっとりと湿らせながら、悲しげに目を伏せるミク。

そんなミクへ、文代はそっと語りかけた。



「まぁ法律の話で言っちゃえばさ、確かにミクちゃんの言う通り、

 人間とアンドロイドは『家族になれない』だろうね。

 でも、それじゃあ役所の書類にサインすれば家族になれるかと言うと、

 そんな簡単に受け入れられもんじゃないのが、人間の心なのさ。

 要はね、家族というのは法律や役所への届出で表現されるものじゃないんだよ。

 家族というのは『心の繋がり』のことを言うのさ」



「心の、繋がり……」



「互いを思いやって、互いを気遣って、強く慈しみ合う事の出来る、

 そんな想いと気持ちの全てを『家族』と呼ぶのさ。

 血の繋がりだとか、戸籍がどうのとか、そんな紙っぺら一枚で表現できるものなんかじゃないんだよ。

 何て言うのか……、深いところで交わる絆、って言うのかね、とにかくそういうものを言うのさ」



「ですが、私は子供を産む事ができません。以前星登さんが仰ったことがあるんです。

 『子供に囲まれた家族に憧れる』って。

 私は……私は、星登さんが望む家族を築く事が、出来ないんです」



ミクの言葉は微かに揺れて、今にも悲痛の色を湛えんばかりであった。

そんなミクに対し、文代はあくまで優しく語る。



「ミクちゃん、私はね、子供を産むってことは、そんなに大事な事ではないと思うよ」



そう語る文代の口調は、あくまで穏やかだ。



初音ミクSS「君の心は、そこにある」六月二十五日[6]へ

関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

缶

Author:缶
SS書いたり読書感想文書いたり仕事のあれこれを勝手気ままにダダ漏れさせる予定のようなそうでないような。

缶のTwitterアカウント

缶のpixivアカウント

オススメ!

最新記事
リンク
ブログ内検索
カテゴリー
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。