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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第三章~懊悩~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)六月二十五日(水)[7]


「はい、どうぞ」



「あ、ありがとうございます」



ミクは文代から差し出されたお茶を一口飲む。

こうして文代の家に呼ばれて、お茶を飲みながら談笑する事はこれまでにも何度かあったが、

今日は話す内容が内容だけにいかばかりか緊張を身に宿してしまう。



文代も自分のお茶を一口飲んで、ふぅと溜息をつく。



「……さて、どこから話したもんかねぇ……」



昔の記憶を辿っているのか、視線を宙に泳がせる文代。

やがて一息つくと、最初の言葉を投げかけた。



「……緒方さんはご両親を亡くしてるという話は、もう聞いてるかい?」



初耳であった。



ミクは少なからぬ驚きに胸を貫かれながら、文代にその事を告げる。



「実はね、緒方さんはもう何年も前にご両親を交通事故で亡くされてるんだよ。

 確か……彼が中学生の時だと言ってたかねえ……。

 ご両親の乗った車が車線変更してきたトラックにぶつけられて、

 そのまま電柱にぶつかってしまったって、そう言ってたねぇ……。

 ありがちといえばそうかもしれなけど、何とも痛ましい事故だよ」



文代はお茶を含んで言葉を続ける。



「そして緒方さんは早輝ちゃんと二人、残されてしまって……、

 あ、早輝ちゃんというのは緒方さんの妹さんなんだけど、そのことは知ってるかい?」



言われてミクは思い出す。

星登が家族に憧れるという話をしたとき、一言だけ妹について口にした事があった。



「ええ、ただ妹さんがいらっしゃるという話だけですけど。お名前を聞いたのは初めてです」



「そう、早輝ちゃんは緒方さんの四つ下の妹さんでね。

 だからご両親が事故にあったとき、早輝ちゃんはまだ小学生だったのかねぇ……、

 とにかく育ち盛りの二人は、ある日両親をいっぺんに亡くしてしまってね……。

 そして二人は母方の叔母夫婦に引き取られたのだけど、まぁこれがひどい人たちでさ。

 二人に虐待してたらしいんだよ」



「虐待……ですか?」



星登の柔和な面差しからは想像できないおぞましい言葉に、ミクは表情を固くさせる。



「二人を厄介者扱いして、お前らは邪魔だ、お前らなんて来なければ良かった、

 そう言ってご飯もろくに食べさせて貰えなくて、

 ときには暴力も振るわれたって、そう言ってたねぇ……」



痛々しい過去を想起するように、文代は目を細めながら続けた。



「お前たちが来たせいで家計が苦しくなった、この疫病神が、

 ……そう罵られながらもね、あの兄妹は二人で庇い合いながら生活してたんだよ。

 緒方さんは家にお金を入れるため新聞配達のアルバイトをして、

 早輝ちゃんはご飯の支度や掃除洗濯なんかを全部やってたって、

 ……叔母夫婦の不満や苛立ちを何とか鎮めようと、二人はそうやって生きてたんだ。

 寝るときには部屋の隅に置かれた布団に二人で寝て、宿題も二人で肩を寄せ合いながらやって、

 当時の二人にとっては、その小さな布団の上だけが自分たちの空間でね……

 大人の顔色をうかがいながら生活していくのは、それはもう辛くて苦しかったろうけど、

 それでも緒方さんと早輝ちゃんの二人は、そうやってお互い支え合いながら生活してたのさ」



ふぅ、と深いため息をひとつついて、文代は続ける。



「緒方さんが高校に進学してからも、虐待は変わらなかったらしいよ。

 相変わらず食事はろくに与えられないし、部屋の隅っこで寝起きして……

 それに高校の学費を出して貰えなかったから、緒方さんは自分でアルバイトして、

 それを学費に充ててたって言うんだ。

 しかも早輝ちゃんの学費まで滞りがちになったっていうから、

 その費用も緒方さんが出して、家にもお金を入れて、

 ……本当、高校生の子供が負うべき苦労じゃないよ。まったく……」



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