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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月十九日(土)[1]

星登と凜奈が入籍してから一週間が過ぎた。

それに合わせて、ミクは井上の呼び方を『井上さん』から『奥様』へ改めた。

星登の事は変わらず『星登さん』と呼んでいたため、

彼女の事も下の名前で『凜奈さん』と呼ぼうとしていたのだが、

それは凜奈の強烈な反感を買い、結果『奥様』と呼ぶ事で落ち着いた。



そうやって入籍する前に、星登は凜奈の両親へ挨拶のために井上家へと赴いた。

そのときの様子を星登は話したがらなかったが、

やはり『子供が出来てから結婚を申し込む』という本来望ましくない順序のプロポーズしたのだから、

井上の両親の反発にあったのだろう。

さすがのミクでもそれくらいの想像力はあった。

それでも両親がどうにか溜飲を下げたのには、

星登と凜奈が高校時代の同級生であること、

二人は卒業後も度々連絡を取り合っていて、数年来の付き合いであることなどいくつかの理由があったが、

何よりも、星登本人の誠実な性格によるものが大きかった。



かくして両親への挨拶を済ませた二人は役所へ届出を出し、正式に入籍を果たした。

結果、凜奈はこれから緒方の姓を名乗る事になったが、

二人が同居するのは少なくとも子供が無事に生まれてからにすることで合意した。

凜奈はこれからつわりなどが始まって心身ともに不安定な時期に入るし、

そんな大事な時期に引っ越しをして新しい生活を始める事は、彼女への負担を大きくこそすれ、

メリットはほとんど無いと判断したからだ。

そんな中で入籍だけでも急いだ理由は、生まれてくる子供に配慮しての事である。



また結納も特に行わず、来月あたりに井上家と星登とで会食を行うのみにしたのは、

星登の特殊な家庭事情を考慮した結果だった。



そして星登と凜奈の結婚式については、

凜奈が子供を出産した後にある程度落ち着いてから執り行う予定だった。

本当は子供が生まれる前に、出来れば凜奈のお腹が目立ち始める前に結婚式を挙げたかったのだが、

そうなると十月か、遅くとも十一月には式を行う必要があり、

それはスケジュール的に難しいと判断して、式は来年以降執り行う事となった。



結論として、星登が結婚することになったとはいえ、

向こう一年は結婚式を挙げる事もなければ引っ越しもせず、

凜奈と同居することもなく、変わった事など殆どなかった。

強いて挙げれば、書類上で凜奈と婚姻関係になった事くらいか。

端的に言ってしまえばそれだけのことだったが、

しかし星登とミクの生活における決定的な変化が、ひとつだけあった。

それは、凜奈が頻繁に星登のアパートへ遊びに来るようになったことだ。

これまではミクに会う事を避けるようにしていたのか、

凜奈がアパートを訪れる事などミクと彼女が初めて出会ったあの日以来一度もなかったのだが、

二人が結婚することをミクに告げてからというもの、

凜奈は何の遠慮もなしにアパートを出入りするようになった。

それこそ、星登は自分のものであり、ミクの入る隙間など残されていないのだと言わんばかりに。

凜奈が部屋を訪れる度、彼女はミクを存在しないものとして、

陳腐な物言いではあるが正に空気のごとく扱い、徹底的に無視したのである。



このように、凜奈は一方的にミクを敵視していたため、

二人の間にはちりちりとした緊張が常にたゆたっていたが、

一方の星登はそれを傍観するのみであった。

ミクを擁護することも、凜奈を窘める事もせず、ただ二人の波風を荒立てないよう、

困ったように二人を見つめるだけだった。

生涯の伴侶となる妻に味方しても、これまで一年近く生活を共にしたミクを庇っても、

必ず何かしらの不協和音が生まれてしまう。

だからこそ二人の仲をどう繕うべきか、星登の悩みはそこに集約されているように思えた。



そうしてミクは凜奈のねちねちとした嫌がらせを前に、

どこか判然としない不満を募らせ、

あの日以来癒される事のない寂寥を胸に抱えながら日々を過ごしていた。



初音ミクSS「君の心は、そこにある」七月十九日[2]へ

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