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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月十九日(土)[2]


そんなある日の事である。



ミクが買い物から帰ってきてアパートの扉を開けようとしたところ、中から声が漏れ聞こえてきた。

星登と凜奈の会話である。

ミクが外出したときには星登が一人で部屋にいたから、

どうやら凜奈はミクがいないタイミングを計って訪れたらしい。



どうせ今部屋に入ったところで、また嫌がらせを受けて、気まずい空気が流れるだけだ。

それならばいっそ、もう少し外で時間をつぶして、

彼女が帰る時間を見計らって帰宅する事こそ賢明なのかもしれない。



そう判断したミクがその場から立ち去ろうとしたところで、凜奈の言葉が耳に入ってきた。



(ねえ星登、どうしてあのアンドロイドが必要なのよ)



ぴたりと足が止まる。

どうやら部屋の中の二人は自分の事について話をしているらしい。



ミクは興味と、それと同じくらいの恐れや不安を抱えながら、そっと聞き耳を立てた。



(だからそれはさっきから言ってるだろう?

 ミクは介護用途アンドロイドで、同時にヘルパー機能も備えているんだ。

 これから子供が生まれるんだし、きっとあの子がいてくれるお陰で助かることだって増えるはずさ)



(そんなことあり得ないわよ。私の子供は私が育てる。ロボットなんかに任せられるわけがないわ)



(そうは言ったって、現実的なこと考えてみろよ。

 子供の世話なんて想像以上に大変だぞ。

 時間も場所も関係なく突然泣き出すし、当然夜泣きだってする。

 僕ら二人が協力して育児するにしたって、

 そこにもう一人協力者が加わっても困る事なんてないじゃないか)



(違うのよ星登、これは理屈じゃないの。感情的にどうしても受け入れられないのよ。

 確かにヘルパーの存在は魅力的よ。私だって悪くないと思うわ。

 だけどそのヘルパーはロボットなのよ?

 どうしてロボットなんかに私の大事な子供を任せないといけないのよ)



(そうは言っても、ミクは立派な介護士だよ。

 この一年間僕はずっとミクを見てきたけど、とても素晴らしい仕事をしてきてくれている。

 そこにある花だって、彼女が植えて育てたものなんだ。だから大丈夫だよ)



(花と子供を一緒にしないで。

 花は枯れたってまた植え直せば良いけど、子供はそういうわけにいかないでしょう?

 そんな得体の知れないものに大事な子供を預けたくなんてないわ)



二人は己の主張を曲げることなく、互いにまったく譲らない。



(それに星登、あなたさっき現実的な事を考えろって言ったけど、あなたこそ現実が見えてないわ。

 だって、あの子を所持しているというだけで、

 どれだけ経済的な負担を強いられているか、考えたことある?)



瞬間、ミクはびくりと肩を震わせた。

それはおぞましい悪寒となって、ミクの背筋をぞわぞわと駆け巡っていく。



(電気代だけ見てもうんざりするほど高いうえに、

 三ヶ月に一度の簡易メンテナンス費用、一年に一度の筐体検査費用、

 それにあのロボットのローンだってまだ払い終えてないんでしょう?

 これから子供が生まれて、二人で協力して暮らしていかなければいけないのに、

 あんな金食い虫をのさばらせておく理由なんか無いわよ)



(何言ってんだよ、お金なんてどうにかなるさ)



(どうにかなるって、何を根拠に言ってるのよ? それに考えてみて。

 もうすぐあのロボットを買って一年になるんでしょう? だったら良い節目じゃない。

 筐体検査で出費がかさむ前に、中古で引き取ってもらいましょうよ。

 そうすれば少なくともこれ以上出費が重なる事もないし、

 中古で売ったお金をローン返済に当てれば、かなり負担は軽くなるでしょう?)



(おいやめろよ、ミクの事を金勘定で考えるのはやめてくれ)



(考えるわよ、当然じゃない!

 結婚資金を貯めなければいけない状況で、出費を出来る限り抑えようとするのは当たり前でしょう?)



以後、二人の口論は平行線を保ったまま不毛な議論を重ねるだけだった。

しかしミクにおいては、より恐ろしい現実がはっきりとした形状をもちながら襲いかかってきていた。



自分が、売られる。



それは余りにも現実味を帯びた恐怖となって、ミクの体内をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。

正に自分の存在意義を真っ向から全否定された瞬間である。

ミクは圧倒的な恐怖に戦慄し、震える体を必死で抑え込みながら、

しかし足が竦んでしまいそこから離れる事すらできずにいた。



(……やめましょう。これ以上ここで話しても、きっと答えは出ないわ)



凜奈が会話を打ち切った。



(もう時間だから私は帰るけど、でもあのアンドロイドの処分については、考えておいてね)



(時間をおいたとしても、僕の考えは変わらないよ)



(……そうね、私もよ)



それだけ言うと、凜奈の立ち上がる気配が伝わってきた。

彼女はきっとこのまま帰宅するに違いない。



このままここに立ちすくんでいたら、私が二人の話を聞いていた事がバレてしまう。



初音ミクSS「君の心は、そこにある」七月十九日[3]へ

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