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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月十九日(土)[4]


「なるほどねぇ……」



文代の家で一通りの説明を終えた後、彼女が発した言葉がそれだった。



「……確かに結婚ってのはとかくお金がかかるもんだけど、それにしたってねぇ……」



それっきり、文代も口を噤んでしまう。



文代は星登本人から結婚報告を兼ねた挨拶をされたため、

最近のミクを取り巻く状況については大まかに理解していた。

文代としては、星登の想い人はミクであると確信していたため、

そこに降って湧いた今回の婚約は正に青天の霹靂であった。

文代曰く、余りの驚きにしばらく祝いの言葉すら思いつかず、

相当に気まずい思いをしてしまったということだ。



「でもさ、緒方さんはミクちゃんのことを引き留めようとしてくれているんだろう?

 ミクちゃんを手放そうとしているのは奥さんだけなんだよね?」



「……はい、確かにその通りですけど……」



「それじゃあさ、きっと大丈夫だよ。ミクちゃんのことは緒方さんが何とかしてくれるさ」



そうやって何とかミクを元気づけようとする文代だが、しかしミクの胸裏を癒す事などできる筈もない。



「……もう、いいんです……」



ミクが力なく告げる。



「私、きっとお二人のお荷物でしかないから、二人の間に私の入る隙間が無いのなら、私はもう……」



「な、何てこと言うんだい! ミクちゃんがお荷物だなんて、そんなことあるわけないだろう!」



「いえ、もう私にはわかってるんです。

 奥様が私を毛嫌いしていることも、私と奥様の不仲に星登さんが戸惑っていることも・・・・・・。

 だからもう、お二人にとって私の存在が負担にしかなっていないのなら、

 私に存在価値がないのであれば、私はいなくなるべきなんです…」



「そんなこと言うもんじゃないよミクちゃん!

 確かに奥さんとの不仲は辛いかもしれないけど、

 それでも自分に価値がないなんて、滅多な事言わないでおくれよ!」



「いえ、私には価値がないんです。ないんですよ、大家さん」



ミクは真っ向から文代を見据えて、告げる。

その瞳には痛切な悲哀を込めて、その声色には悲惨な慟哭を込めて。



「だって私は、アンドロイドなんです! 所詮アンドロイドに過ぎないんですよ!

 子供を産む事も出来ない、本当の家族にだってなれない、単なる道具でしかないんです!

 それでも、星登さんとずっと一緒に過ごして、

 例え仮初めであっても『家族のような存在』になれれば、それは私にとって望外の喜びでした。

 だけど、そんなのは所詮偽りの家族に過ぎないんです。

 奥様のように子供を産む事ができて、社会的にも本当に正しい家族になれる人には、

 私はどうしたって適わないんです!」



「か、適わないって、何の事を言ってるんだい?」



ミクの悲嘆に満ちた剣幕に圧倒されながら、文代はミクの言葉に対して疑問を投げかける。

それに対し、ミクは半ば居直りにも近い荒っぽさで答えてみせた。



「…私、私は、星登さんの家族になりたかったんです!」



そしてミクはタブーに触れた。

アンドロイドは己の願望を口にしてはならないというルールを破り、

ただ力任せに己の胸中を吐き出し、ずっと秘めていた本音を暴露していく。



「私は星登さんの家族になりたかった! 『家族に憧れる』と言った星登さんの夢を叶えたかった!

 星登さんが最高に幸せだと思える、そんな環境を作りたかった!

 そしてその役目は、他の誰でもない、私が担いたかったんです!」



ミクの狂暴とも言える独白は止まらず、いつしかその瞳からは涙が滂沱と流れていた。



「私が星登さんを幸せにしたかった! 私こそが星登さんを幸福にしたかった!

 星登さんの孤独も、心細さも、全部ひっくるめて私が癒して、

 彼にはただ幸せだけを感じていて欲しかった!

 私がいたから幸せになれたって、そう実感してほしかったんです!」



ミクはそこまで言うとようやく一息ついて、若干の落ち着きを取り戻すことができた。

流れる涙をぐいと拭って、しゃくり上げる喉を抑えながら、どうにか言葉を紡ぎだしていく。



「……だけどそれも、全ては叶わぬ夢に過ぎないんです。

 だって星登さんはもう、本当の家族を手に入れたんですから。

 ……奥様は、アンドロイドの私では絶対に越える事ができない壁をいとも簡単に越えて、

 星登さんの家族になりました。

 これで星登さんが孤独を抱える事もないし、寂しさを感じる事もないでしょう……。

 だからもう、私はこれ以上ここに存在している意味も価値もあり得ないんです……」



そこで二人の間に沈黙が訪れた。

文代はかける言葉が見つからず、ミクは情動が高ぶって何も言葉に出来ず、

ただミクのしゃくり上げる声だけが二人の耳に届いていた。



日はいよいよ西に傾き、朱の光が部屋の中までその色に照らしている。

西の空を僅かに赤く染めていたに過ぎない先ほどとは打って変わって、

今となっては窓の外に広がる風景全てを仄かな朱に染めあげ、

外から舞い込んでくる柔らかな風に至っては、どこかもの悲しい感情までをも運び込んでくるようだった。



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