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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十七日(日)[1]


あれから更に一週間が過ぎた。



ミクの処遇については星登と凜奈の間で折り合いがつかぬまま、ただ無為に日々が過ぎていった。

相変わらず星登はミクと一緒に生活することを主張し、そして凜奈はミクを手放す事を主張している。

こうした議論においては、お互いがどこかで妥協点を見つけなければ決着をつけられないものだが、

たいがい議論の途中で凜奈が感情的な物言いを始めてしまうため、いつもそこで収拾がつかなくなり、

結局何の結論も出せずに終了してしまうのだ。



そして今日も凜奈は星登のアパートを訪れ、この話題について何かしらの結論を出そうとしていた。

あろうことか、その場にミクがいるにも関わらずだ。



勿論星登はミクの目の前でそのような話をしたがらなかったが、

凜奈は今ここで話をつけたいと譲らなかった。

そのことでまた二人が口論になりかけたところで、ミクは自分から部屋を出る事を申し出た。



そのときの星登の申し訳なさそうな表情、そして凜奈の弱者を見下すような表情は、

忘れようとしても忘れられそうになかった。



そうしてミクは目的もなく、ただとぼとぼと歩いている。

見上げれば夏空に雲の峰がひときわ高く立って、風鈴を鳴らす風もなく、

しかしふんだんに注がれる日光がじりじりとミクの肌を焼く。

そんな酷暑とも言える七月の空の下で

、時間を潰すということに慣れていないミクは何をすれば良いのかわからず、

とりあえず町の子供たちがいつも集まっている公園に向かう事にした。

そこに行けば、誰か知り合いがいてくれるだろうと期待して。



かくしてミクの期待通り、公園では警備用途アンドロイド<KAITO>のトシヤが

子供たちに交じって野球に興じていた。

珍しく秘書用途アンドロイド<MEIKO>のコトミまでもが、

公園隅に設置されたベンチに座って彼らの試合模様を観戦している。



ミクはベンチに近づきコトミに挨拶した。



「こんにちは、コトミさん」



「あらミクちゃん、こんにちは」



「今日は珍しいですね、こちらの公園にいらっしゃるなんて」



「ええ、だって今日はトシヤの野球デビューの日なんですもの。

 それは応援しないわけにいかないでしょ?」



言われてみれば、確かにトシヤが野球をしているところなど見た事がなかった。

ミクは熱せられたベンチに腰を掛け、トシヤを見やる。

彼が参加しているくらいだからこの試合が正式なものとは思えなかったが、

それでもバッターの傍でキャッチャーミットを構えるトシヤは様になっていて、

危なげなくピッチャーの球を捕球する姿は堂々たるものであった。



「……さすがトシヤさんですね。あんなに速いボールをちゃんと受け取るなんて」



「フフ、そうでもないのよ。

 アイツも最初のうちはボールをうまく受け取れなくて、よく頭で受け取ってたみたいだし」



コトミは楽しそうに笑いながら言葉を続ける。



「ほら、いまピッチャーやってる男の子いるでしょ?

 あの子ね、来週の日曜に隣町の少年野球チームと練習試合があるんだけど、

 その試合で先発に選ばれたんですって。

 それでね、チームの練習の時以外にも投球練習したいから、トシヤに付き合ってくれって頼んで。

 トシヤはあの性格だからさ、もちろん断るわけもなくて、ずっと二人で練習してたのよ」



コトミはその表情に安息と仁愛をたゆたわせ、トシヤたちの様子を見守っている。



ピッチャーの男の子がボールを投げる。

スパン、と気持ちの良い音を立ててトシヤのミットに収まった。



「それで二人で練習することになったんだけど、

 もう最初のうちはトシヤったらボールをうまく取る事も出来なくってね。

 あっちこっちにボールをぶつけて、出張所に帰ってくる度に

 私がメンテナンスをしてあげなくちゃいけなくってさ。

 ホント、あんなでかい図体して、子供みたいに手がかかるんだから」



その言葉とは裏腹に、コトミは瞳に深い慈しみの情を湛えている。

初音ミクSS「君の心は、そこにある」七月二十七日[2]へ

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