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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十七日(日)[2]


「そうやってね、頭とか色々なところにボールをぶつけ続けたせいで、

 今のアイツ、モバイルフォン機能が壊れちゃってるのよ」



「ええ! そ、それって大丈夫なんですか?」



ミクが驚いたのには理由があった。

警備用途アンドロイドとして開発された<KAITO>は、

不審者から襲撃を受けた際にすぐさま対応をとれるわけではない。

そういった危険な状況に遭遇した場合、<KAITO>はモバイルフォン機能を通じて、

GPS情報や危険度、視覚・聴覚ログを含む情報をセンターへ報告し、

人間のオペレータから許可がおりて初めて対応を行う事ができる。

これはアンドロイドが各筐体の判断で、濫りに拘束とそれに伴う暴力行為に及ばないよう、

制限をかけるために設けられたシステムなのだ。



しかしいま、トシヤはそのモバイルフォン機能が壊れているという。

それはすなわち、トシヤが<KAITO>として犯人を拘束することができず、

自己防衛を行う事も出来ない事を示しており、更にはALKOSへ応援要請を出したり、

警察などの公的機関へ救助を求めることすら出来ないということなのだ。



ミクとコトミは<KAITO>ほどの自己防衛機能を持ち合わせていなかったが、

それでもモバイルフォンで警察へ連絡できることを考えれば、

今のトシヤはミクたち以上に『危険に弱い』状態であると言える。



「まあ大丈夫かと言われれば、やっぱり、大丈夫じゃないわよね。

 でもさ、だからと言ってモバイルフォン機能の修理をするためには、

 数日は工場に拘束されて、みっちりとメンテナンスされなければいけなくなっちゃうじゃない?

 トシヤはね、その数日の拘束期間が嫌だって言ったの。

 せっかくあの子と約束をしたのに、こんなことで数日間も留守にする事はできない、

 留守にすればあの子は練習をできなくなってしまう、

 だから僕は修理に行くわけにいかないんだ、ってね。

 ……まったく、トシヤの身を心配するこっちの身にもなりなさいってのよ」



コトミは柔らかくたおやかな微笑みを浮かべながら、トシヤを見つめている。



「……ま、そんなアイツだから、私も好きになっちゃったんだけどさ」



そうつぶやくコトミの表情は正に恋着のそれに染め上げられ、

温かい桜色の想いをその身に潜ませていることを容易に想像させた。



いつも温厚で柔和な微笑みを絶やさないコトミと、

表情は無機質でありながら胸の内には常に思いやりを秘めるトシヤ。

何とお似合いの二人だろう、ミクは純粋にそう思えた。

コトミはトシヤへの恋情にその身を焦がし、トシヤはコトミへ無二の信頼をおいている。

二人は確かな絆でもって、互いを支え合っている。

だがアンドロイド同士の彼らは、人間のように『家族』となる事もできなければ、

『生涯共に暮らす』という確約を得る事すらできない。

しかしせめて、コトミがかつて望んだ『彼と一緒にいたい』というシンプルな願いだけは、

できるだけ長く続いていってほしいと、そう思えた。



そうして二人で話しているうちに野球では攻守が交代したらしく、

トシヤがこちらのベンチへやってきた。



「こんにちはミクちゃん、来てくれていたんだね」



トシヤが相変わらずの無表情で挨拶する。

だがその声音には親愛の情が込められていた。



「ええ、それにしてもトシヤさん大活躍ですね。見直しちゃいました!」



「いや、僕の力ではないよ。あの子の努力の結果さ」



そう言いながらキャッチャーミットを外すトシヤ。

そんな彼にコトミが話しかける。



「ねえトシヤ、体の調子はどう? 大丈夫?」



「ん? ……ああ、大丈夫さ。問題ない」



「……本当に? ダイアグノスティック・アプリケーションは走らせた?」



「走らせたさ。それでも問題は見つけられなかった」



「そう? それなら良いけど……、ただでさえモバイルフォン機能が壊れてるから、心配で……、

 ねえ、試しにHFDパネル見せてよ。私が見てあげるから」



HFDとはHardware Failure Diagnostic(ハードウェア障害診断)の略である。

そしてHFDパネルとはその名の通り、

アンドロイドのハードウェア状態を十六進数四桁の数字でLEDパネルへ出力するものだ。

これは全てのアンドロイドに(もちろんミクにも)備えられており、

うなじの開閉式パネルを開ければ誰でも見る事ができる。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」七月二十七日[3]へ

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