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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十七日(日)[3]


「い、いや、大丈夫だよ。問題ないから、心配しなくていい」



あからさまに不審な態度をとるトシヤ。

当然コトミはそれを訝しがる。



「ちょっとトシヤ、アンタ何か隠してるんじゃないの?」



「か、隠してなんかないさ。コトミが心配性なだけだよ。僕は問題を抱えてなんていないのだから」



「だったら見せても問題ないはずでしょう? 良いからとっとと見せなさい」



「いや、しかし……」



「早く!」



コトミが一括し、トシヤはしぶしぶながら彼女の隣に座って、うなじをコトミに向ける。



すっかりコトミに頭が上がらなくなってしまっているトシヤの姿が微笑ましくて、

ミクは温かな空気にふわりとくるまれた気がした。



コトミはHFDパネルに備え付けられたボタンをカチカチと操作して、

過去ログをひとつひとつ参照していく。



「ええ、と……0C86、85DC、933B、……確かに問題ないみたいね……、

 って、ええ? F96A? アンタこれ、SSDが壊れかかってるじゃない! どうして黙ってたのよ!」



SSDとはSolid State Driveの略で、フラッシュメモリの技術を応用した大容量の記憶装置であり、

ここにアンドロイドの核となる様々な情報が格納されている。



コトミの指摘通り、『F96A』とは複数搭載されたSSDのうち、

どれかひとつが壊れかかっていることを示している。

具体的にどのSSDが壊れかけているのかは更にログを調べなければわからないが、

少なくとも放置しておいて良い事態ではない。



「こんなことしてる場合じゃないわ! 今すぐに帰って、SSDを交換しないと……!」



「コトミ、君は大げさだよ。

 確かにSSDがひとつ壊れかけているけど、僕にはスペアとなるSSDが二つ搭載されているんだよ?

 二つ同時に壊れてしまう確率なんて、天文学的にありえないことさ」



「確かに、それはその通りだけど……」



「君がそうして心配してくれることはわかっていた。

 だからこそ、余計な負担をかけたくなくて、僕はこのことを隠そうとしていたんだ。

 ……わかってくれるかい?」



「な、何言ってるのよ! そんな、余計な気を回して……!

 心配するに決まってるじゃない! だって、だって私は……!」



そこで言葉を止めてしまうコトミ。

あやうく思いの丈を放ってしまいそうになり、慌てて口を噤んだのだ。



「? どうしたんだい、コトミ?」



そして勿論、トシヤはそんなコトミの想いなど気がつく素振りさえ見せない。



「な、何でもないわよ」



それだけ言ってそっぽを向くコトミ。



「……そうかい? 僕には君が機嫌を損ねているように見えるのだけど……」



「何でもないったら! とにかく、アンタは私に余計な気を回さないで、

 これからは不調があったら必ず教えなさい! 良いわね?」



「……ああ、そうだね。約束する」



トシヤがゆったりと、しかし確かな力強さでそう宣言する。

彼がそう言うのだから、今度からは絶対にコトミへ隠し事はしなくなるだろう。

トシヤとはそういう、愚直なまでに誠実な男だった。



「うん、それならよろしい」



そう答えて、コトミはしなやかな笑みを浮かべる。

それは慈しみに満ちた、泰然とした微笑みであった。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」七月二十七日[4]へ

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