正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十七日(日)[4] 「……なんか、君には迷惑ばかりかけてしまっている気がするな」
「何よトシヤ、今更気がついたの?」
悪戯っぽく笑うコトミ。
「ボールを体中にぶつけてくるもんだから、あなたのメンテナンスを手伝うの大変だったわよ?
電磁筋繊維の応急処置に、アクチュエータの交換、モバイルフォンのテストに、衝撃吸収剤の注入……
もう、挙げていったらキリがないわ」
そう言いながら笑うコトミ。
トシヤの無表情は変わらなかったが、しかしどこかばつの悪そうな態度を見せている。
「何て言うべきか…君には、感謝しているよ。本当に」
「そう、あなたは私に感謝すべきよ。
あなたの体をこんなに甲斐甲斐しく世話してくれるアンドロイドなんていないんだからね?」
照れくさいのか、つっけんどんに返すコトミ。
しかしその頬が僅かな紅で染められていることに、ミクは気づいていた。
「……ああ、そうだね。ありがとう、コトミ」
トシヤが答えると、彼は自然に腕を伸ばして、コトミの髪をすっと撫ぜた。
「な、何? ど、どどどうしたのよ突然?」
驚いたコトミは思わず身を竦め、多少どもりながらトシヤをみやる。
「あ、ごめん。その……嫌だったかい?」
コトミを驚かせてしまった事に、逆に傷ついたような表情を見せるトシヤ。
「僕にはこれくらいしかしてあげられることがないから、せめてもと思ってしたことなのだけど……、
ごめん、もし君が嫌ならもうしないよ」
「い、いや、別に、……それほど嫌だったってわけでも、ないんだけど……」
そのままごにょごにょと語尾が小さくなっていく。
コトミの言葉に安心したのか、再びトシヤは腕を伸ばしてコトミの髪を梳いていく。
優しく、丁寧に。
「……ありがとう、コトミ」
「……ぁ、……ぅぅ……」
コトミは微かな呻き声を漏らし、ただトシヤにされるがままになっていた。
トシヤの指がコトミの赤い髪を穏やかに撫ぜる度、彼女の顔はどんどん紅潮していく。
いまやコトミは耳まで真っ赤にしながら身を硬直させて、いつも緩やかに湛えられている笑顔ですらも、
いまこの瞬間だけはなりを潜めていた。
トシヤはかけがえのない宝石を扱うように、丁寧に、繊細に、献身的とすら言える優しさでもって、
コトミの髪を梳いていく。
それは正にコトミへの情愛の顕現であり、彼なりの誠意そのものであった。
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