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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十七日(日)[5]


そんな、穏やかで、柔らかな時間を過ごしているとき。



「あ、あああたし、そろ、そろそろ事務所に、もも戻らなきゃ」



緊張しているのか動揺しているのか、慣れない状況で完全にたじろいでしまったコトミは、

いつもの彼女からは信じられないほど平静さを失って、どもりながらそれだけを告げた。



コトミの髪から指を離して、トシヤが疑問を投げた。



「今から事務所に、かい? でも今日は日曜日だよ?」



トシヤから解放されたコトミはひとつ空咳をして、何とかいつもの調子を取り戻す。



「ええ、もうすぐお盆休みに入るでしょう? だからこの時期には仕事が集中しちゃってね。

 今から少しずつ片付けておかないと、終わらないのよ」



「そうか……それは残念だ」



トシヤは表情を変えず、しかしその声音には未練を滲ませながらコトミを見つめた。



「本当は最後まで応援したかったけどさ、ごめんね。ミクちゃんはどうする?」



「私は最後まで観戦させていただこうと思ってます。他にすることもありませんし」



「そう。それじゃあ、試合の結果を後で教えてね。具体的には、トシヤの珍プレーとかをさ」



ミクとコトミは二人でクスクスと笑い合う。

その中でトシヤだけが憮然とした態度を見せていた。



「じゃあね、二人とも」



そう言ってその場を去ろうとするコトミに、トシヤが声をかけた。



「待ってくれ、コトミ」



「なに、どうしたの?」



「やはり僕が事務所まで送っていこう。少し待っててくれないか?」



「やだトシヤ、何を言ってるの? あなたいま試合の最中じゃない。

 勝手に抜けてしまって良いわけ?」



「それは良くはないが……、だけど事情を話して、何とか抜けさせてもらう」



そう語るトシヤの声音には、何か得体の知れぬ懸念が込められていた。



「最近巡回をしていて、治安が悪くなってきてることを本当に強く感じる。

 先月、遂に隣町でも<MEIKO>を襲撃する事件が発生したし、

 この町でも事件が起こらない保証なんてどこにもない。

 少なくとも、アンドロイドが単独で行動するのはしばらく控えるべきだ」



「うん、まぁ、確かにそうかもしれないけど……、でも大丈夫よ。

 だってまだこんなに明るいのよ? さすがに白昼堂々と襲われるとは思えないわ」



「しかし……」



「あ、それじゃあ私がコトミさんにご一緒しますよ」

なおも食い下がろうとするトシヤに、ミクが告げた。

「二人一緒なら、トシヤさんも安心ですよね?」



「いや、そうなると、今度はミクちゃんが帰るとき、誰も付き添いがいなくなってしまうじゃないか」



「それなら大丈夫です。コトミさんを事務所に送り届けたら、私は星登さんに迎えに来てもらいますから」



「……そうかい? 確かに、それなら安心だけど……」



「ホラホラ、トシヤ」

コトミが呆れたように告げる。

「野球、もうすぐ交代になりそうよ? 準備しなくて大丈夫?」



振り返り、カウントを確認する。

確かにもうすぐ交代になりそうだ。



「……それじゃあすまないが、ミクちゃん、コトミをよろしく頼むよ」



「はい、任せてください! トシヤさんも頑張ってくださいね!」



「ありがとう。コトミ、本当に気をつけてくれよ」



「大丈夫よ、心配性なんだから」



苦笑しながら返事するコトミ。



「それじゃあミクちゃん、申し訳ないけど、事務所まで送ってもらえるかしら?」



「はい、喜んで!」



そうして二人は公園を後にした。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」七月二十七日[6]へ

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