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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十七日(日)[6]


ミクはコトミを事務所へ送り届けてから、モバイルフォン機能で星登の携帯へメールを送信した。

まさか本当に星登に迎えに来てもらおうと考えたわけではなく、

そろそろアパートへ戻っても良いか確認しようとしたのだ。

だが星登からの返信は素っ気ないものだった。



『まだ時間がかかりそう。もう少し時間をつぶしててほしい。ごめん』



そのメールを読んで、ミクは複雑な想いに駆られる。

あのアパートで二人が交わす会話の内容が気になるのは勿論のことだが、

それよりも夫婦となった彼らが、

部屋に二人きりという状況になったときに及ぶであろう行為についても思いを巡らせてしまい……、

気分が悪くなって考えるのをやめた。



ミクは体の奥を握りつぶされたような嫉妬を抱えるが、無理やりその想像を思考から追いやって、

メールの指示通りもうしばらく時間をつぶすことにした。



近所の本屋で文庫本を一冊購入し、街の中心部に近い公園のベンチでそれを読むことにした。

どこか適当な喫茶店に入っても良かったのだが、偏見と謂われのない差別に晒されることを恐れ、

こうして公園で一人佇むことを選んだ。

喫茶店のように人が集まる場所よりは、公園のように見通しが良く人通りもそこそこある場所の方が、

そういった偏見に合うことが少ないことを、ミクは経験で知っていたのだ。



ミクは容赦のない日光から逃れられるよう、木陰となっているベンチを探してそこに腰掛けた。

風はなくとも、緑陰に入ればいくらか暑さは紛れる。

時折申し訳程度に吹く風が梢を揺らし、

それに応じてぱらぱらと葉の鳴る音を聞きながら、ミクはゆっくりと本を読んだ。



夕方になり、風が僅かな冷たさを含み始めたころ。

ミクはもう一度星登へメールを送ってみるが、返信は次のようなものだった。



『悪いけど、もう少し待っててくれ。都合が良くなったらこちらから連絡する』



ミクはちくりと胸を痛めるものの、仕方なくもう少し時間をつぶせそうな場所へ移ることにした。

星登からの連絡があるまでこの公園にいようかとも考えたが、トシヤの言葉がふいによみがえってきて、

やはり安全のため喫茶店に入ることにした。

幸いなことに店内は空席が目立ち、ミクが席についても問題ないように見えた。



そうして時刻は夜の八時になろうとしたころ、ようやく星登から連絡がきた。



『遅くなってごめん。もう大丈夫だよ。迎えに行くから、今どこにいるか教えてくれるかい?』



ほっと温かな安堵が胸に広がる。

ミクは嬉しさが表情に滲み出てしまうのを抑えることができず、星登へ返信した。



『お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です。今から戻ります。夕飯はもう食べましたか?』



『いや、それがまだなんだ。もうお腹ペコペコだよ。

 今から用意するのも面倒だし、デリバリーでも頼もうと思うんだ』



その星登からのメールに、ミクはしばし考えてから返信する。



『簡単なものでよろしければ用意しますよ。その方が安上がりですし、今から戻ります』



『わかった。それじゃあ待ってるよ』



星登からの返信を読んでから、ミクは家路についた。

そうして微かに高揚した気持ちを抱えながら歩を進めていたミクは、ふと己の情動を見つめ直す。



凜奈という女性が現れ、ミクの存在価値はなくなろうとしている。

星登はミクを手放さず、家に止めようとしてくれているが、

それでもこれからミクの居場所がなくなっていくことに変わりはないだろう。



それは先日ミク自身が自覚してみせた、紛れもない現実ではないか。

文代の家で痛々しく独白した、あの現実そのものだ。



そう、だからこれからは、自分は星登を諦める努力をしなければならない。

先ほどのように、星登からのメールに一喜一憂しているようではいけないのだ。

あくまで冷淡に、冷静に、マスターとアンドロイドという主従関係に徹しなければ。



そんな痛切なる決意を新たにして、ミクが夜道を歩いているときのことだ。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」七月二十七日[7]へ

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