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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十七日(日)[7]


「なあ、ちょっとちょっと」



周囲には誰もいない。

もしかして自分が呼ばれたのかと思って振り返ると、若い男性がゴミ置き場の前に立っていた。

そのゴミ置き場は隣接されたマンションの住人のためのものなのだろう、

少し大きな物置くらいの広さで、プライバシーを守るためなのか頑丈そうな扉が備えられており、

中の様子が見えないようになっている。

昼間はきっと子供たちの格好の隠れ場所になっているのだろうなと思いながら、ミクは返事した。



「はい、なんでしょう?」



「あのさ、駅まで行きてえんだけど、道がわかんなくてさ」



その青年は髪を茶色に染め、ネックレスやら指輪やらをごてごてと身につけている。

その言動から軽薄そうな印象を受けるものの、ミクは道順を答えた。



「最寄り駅でしたら、この道をまっすぐ行けば信号がありますから、そこを左に折れてですね……」



「あー、口で説明されてもわかんねえからさ、地図見て教えてくんね?」



言うと青年は手元の地図を広げる。

ミクは言われるまま近づき、その地図を覗き込んだ。



「あぁ、この地図で言うとですね……」



言い終わらぬうちに、突然ミクは口を押さえつけられ、

いつの間にやら開いていたゴミ置き場の中へと引きずり込まれた。



何が起きたのかわからなかった。

何をされているのかわからなかった。

ただひたすら己の束縛を解こうともがき、

口を押さえる手を引きはがそうとして、両足を必死でばたつかせる。

だが無情にも全て失敗に終わり、遂にはゴミ置き場の扉を閉められて、恐ろしいほど静かな闇に包まれた。



「おい、新しいのつかまえたぞ」



ミクを抱きすくめている青年が言った。



「お、やるじゃんイツキ」



「なになに、今度の子すっげカワイーじゃん」



闇から二人の男の声が聞こえてくる。

何の話をしているのかわからない。

恐怖に身が竦む。

口を押さえている手を剥がそうと力を込める。

しかし鋼鉄でできているのかと思うくらいにびくともしない。

何か言おうとしても、うーうーとくぐもった声しか出ない。

ふいに、ある言葉がミクの脳裏をよぎる。



アンドロイド襲撃事件。



瞬間、圧倒的な恐怖が全身を駆け抜けた。

それは強烈な電撃となってミクの体を麻痺させ、自由を奪い、

どのような抵抗もできぬほどミクを震え上がらせ、

ただ成り行きを見守ることしかできなくなってしまった。



声も出ない。

命乞いもできない。



かたかたと震える全身を抑えることもできず、ミクは三人の会話に耳を傾ける。



「おう、だからそんなくたばったアンドロイドなんか放っておいてよ。こいつ使おうぜ」



何を言ってるの?

アンドロイド?

くたばった?

放っておく?

使うって何を?



恐慌を来したミクの瞳がようやく闇になれてきて、おぼろげながらゴミ置き場の中の様子が見えてきた。

壁の上部に取り付けられた換気扇。

そこから微かに差し込む月光。

二人の男。

一人は耳に多数のピアス。

もう一人はぼってりとした脂肪を顎の下に蓄えている。

下卑た視線を向ける二人の表情。

そして足もとで倒れ伏している男。

ミクは倒れている男に目を凝らす。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」七月二十七日[8]へ

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